○名前で呼び合える接客のススメ

F's セールスエッセイ2004年3月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
顧客情報のデータベース化が進んでいます。データベースで上得意客の名前や買物傾向がわかっても、来店したお客様が上得意客かどうかを素早く判断できなければ、接客に生かすことはできません。情報化が進んでも、それを活用するには、お客様の顔と名前を覚えることが肝心といえます。
 
 
■ ネット販売は名前で接客

多くのインターネット販売では、リピーターに名前で挨拶します。例えば、インターネット書店のアマゾンドットコムでは一度注文すると、次からはウェブサイトを開くとすぐ、「こんにちは、長原紀子さん」とまず名前を入れたあいさつが画面に表示されます。自動的にコンピューターシステムがやっているものですが、きちんと名前を呼んで挨拶しているという印象は悪くありません。

インターネット販売でここまでしている時代に生身の人間が相手をしている店頭では、より一層血の通った接客が求められるといえます。とはいえ、お客様の名前は意識しないとなかなか覚えられず、苦労している販売員も多いのではないかと思います。

■ 名前を覚える秘訣とは

ベテランの販売トレーナーとして引っ張りだこのある方に聞くと、「お客様の名前を覚えるには、なにかのきっかけで、自然に聞くことが一番。」といいます。

その際、大切なことは、まず自分から名乗ることだそうです。「私は**と申します。いつもお世話になっております。お客様は、よくお見えですね」といったやりとりの中で自然にお名前をたずねると、大抵の場合、お客様は喜んでお名前をいってくださるそうです。名前を尋ねて嫌がるお客はめったにいませんが、万一「なぜ、そんなこと聞くの?」といぶかるお客様がいたら、「失礼いたしました。いつもご利用なさっているのでお聞きしたいと思っただけですので、気になさらないでください」と引き下がればよいので、どこまでもさりげなく聞くことがポイントだそうです。

 最近では、お客様がいろいろなサインを出しているのに気づかない店員が多いと、そのトレーナーは嘆いていました。例えば、お客様が「あなたもずいぶん、この店に長いわね」と話し掛けているのに、応対したアルバイト店員は「はー、そうですね」と答えたまま、会話が途切れてしまいます。そこで、「あなたも長いわねとお客様が話し掛けたということは、以前から何度も来ている方のはず。だったら、『お客様、いつもご利用ありがとうございます。私は**と申します。お客様のお名前はなんとおっしゃいますか?』と自然にお聞きしたら、次回来店時には、お名前でお呼びすることができますよ」と、指導したそうです。

 また、別の店に行った時のこと、その店のアルバイト社員が「渋谷店がリニューアルで閉鎖中なので、新宿店に来たお客様がいました」というので、「どなたかお聞きした?」と確認したところ、「そこまではしませんでした」とのこと。「そういう時こそ、『お客様、渋谷店は*月*日に新装開店します。お客様が新宿にお越しいただいたことは渋谷の店長に話しておきますので、お名前をお聞かせいただけますか?』とお名前をうかがい、渋谷店にそのお客様がまた見えた時、店長が挨拶できるようにしなくては」と指導したそうです。

 最近は、アルバイトやパートが増えて、細かい具体的なところから指導しないと人は動きません。例えば、「お客様の名前を覚えて、名前で接客しましょう」というだけでは不十分で、「どうしたら、お客様の名前を聞き、覚えることができるか」というところから指導しているのだそうです。

お客様の名前を自然に聞く機会は、接客の中で意識していれば、何度もあるで、その機会をのがさず、何げなくたずねることがポイントだそうです。

■ 名前を忘れない工夫

名前を聞くことができても、ずっと覚えているのは大変です。忘れないためには、接客中に何度も「**さま、いかがですか」というふうに声に出すことが大切です。手帳やメモなどに、お客の顔の特徴やお買い上げ商品などをメモして記憶することも役立ちます。

ある百貨店では、上得意のお客様が来店したら、店員と一緒にデジカメでスナップを撮らせて貰っているそうです。2枚プリントして、一枚はお客様に差し上げ、一枚は売場の事務所に掲示し、折に触れて見て、全員で上得意のお客の顔と名前を覚えています。

クレジットカードを支払い時に利用するお客様も多いことと思います。カード支払いの場合には、カードでお名前を確かめることができます。通常は、カードを返す際に、カードの名前を読み上げ、「ありがとうございました。**様」といいます。それに加えて、カードを預かる際にも、「**様、カードをお預かりします」と名前で確認すると、2回名前を言うので、名前が記憶に残りやすくなります。重ねて名前を確認することで、カードの取り違えも防ぐことができ、一石二鳥といえます。

このように売場でのちょっとした工夫によって、お得意客の顔と名前を覚えやすくなります。

■ ICチップの個客認識にも死角あり

微小で、カードなどに埋め込めるICチップが注目されています。すでにJRのスイカカードや回転すしの皿を正確に速く数えて精算するのにも使われています。

 プラダのニューヨークの店では商品にICチップをつけ、「素材」「サイズ、色」などの問い合わせに正確に答えたり、試着室で、洋服と雑貨のコーディネートを画像表示したりするのに実験的に使われています。
商品にICタグをつけると、情報を読み取ることによって、顧客の質問への対応等を簡単に行うことができるので、大変便利になるだろうといわれています。また、棚卸などでは、非常に簡単に在庫を把握できるので活用が期待されています。

ICチップを埋め込んだ個人識別カードを顧客に持って貰うと、呈示されなくても、電子端末機器などで、販売員が情報を読み取ることが可能です。端末にお客様の名前や以前買われたものが表示されるので、それを見て、「こんにちは、**様、先日お買い上げのジャケットいかがでしたか」と接客することも技術的には可能です。

 将来的には、こうした便利なシステムによって、必死でお客様の名前を覚えなくてもすむ時代が来るのでしょうか?実は、そううまくはいかないのではないかと思います。例えば、お客様がIDカードを持っていなかったら、情報もいっさいわからないということになるので、接客現場では困ります。また、IDカードを持っている時といない時で店員の対応が大きく変わっても感じがよくありません。

 お客様の顔と名前を覚えるのは、これから先も、お客様とのコミュニケーションを通じた方法が中心であり続けるのではないでしょうか。

こうして見ると、お客様の名前を覚えるに特別な近道はないようです。日々の接客の中で、意識してお客様の名前を覚え、顧客情報をマメに記録することが大切といえます。

人間にとって自分の名前は最も心地よく耳に響くといわれます。買物の際、最高の笑顔で「〇〇さま、いらっしゃいませ」と店員に迎えられると、お客は「この店は私のことを覚えていてくれる!」と嬉しくなります。名前だけでなく、「何気なく言ったことや以前買ったものを覚えていてくれた」ことをきっかけに、その店のファンになるお客様が大勢います。

お客様の名前を一人でも多く覚え、接客後も、買い上げ商品やちょっとした会話などを記録することで、お客様についての情報をできるだけ詳しく記憶し、次に来店された時に気持ちよくお迎えしたいものですね。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
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