○「正しい日本語実用編」

F's セールスエッセイ2000年5月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
英語の第二公用語化が浮上する一方で、「まず日本語の乱れを正すのが先」との声も高まっています。今回は接客における、正しい日本語の遣い方について考えてみましょう。
 
 
■書き違い、読み違い
書き方を誤って覚えている言葉は案外多いものです。例えば、「かきいれどき」は書き入れ時と書くことをご存知でしょうか?売上げを帳簿に書き入れるのに忙しい時という意味から出た言葉です。お金を熊手で掻き集めるイメージから、掻き入れ時と思い込んでいる人も多いと思います。お客様へのお便りに「今は掻き入れ時で…」などと思わず書いて恥をかくことのない様、注意したいものです。

「今日はいやでもおうでも残業してもらいますよ」などと言う時に使う「いやでもおうでも」を「嫌でも応でも」と思いこんでいる人もいますが、正しくは「否でも応でも」です。不承知でも承知でもしなければならないことを意味します。
商売がうまくいかなくて、「しんきまきなおし」をする時は、新規蒔き直しです。新規巻き直しではありません。ゆるんだネジを巻きなおすのではなく、お客さまに対して新しい種をまくことを指すのですね。

 言葉の本来の意味をたどると、思いもかけない発見をする時があります。気になる言葉が出てきたら、辞書や日本語についての本をひもといてみましょう。

■間違いやすい言葉の使い方

 人にものを頼む時に、「藁をもすがる思いでお願いします」と頼んでいる人がいます。この言い方は、相手を藁程度に見ていることになるので大変失礼になります。

「老骨に鞭打って」という表現のように、本人が自分の行動を謙遜する時にだけ使う言い方があります。それを相手に向けて「**さんは老骨に鞭打って、よくがんばっておられますね」などと使うと、失礼になります。

 全然は、「全然〜でない」というように下に否定や打消しの意味を伴って使われる言葉ですが、「全然お似合いです」「全然おいしいです」などと、言っていることがあります。「大変よくお似合いです」「とてもおいしいです」がすっきりした言い方です。

こうしてみていくと、間違いに気がつかずに日本語を使っていることは案外多いものです。気がつかないので本人はどこ吹く風ですが、お客様の方は気分を害したり、嫌な感じを受けたりしている場合も多いので、注意が必要です。

■ 難しい敬語

外国人には習得できないと言われるほど難しい敬語は、日本人でも、完全にマスターするのは大変です。敬語を使おうと一生懸命のあまり、変な日本語になってしまう場合もあるので、気をつけたいものです。

丁寧に話そうとするあまり、「お宅には猫が何匹いらっしゃいますか」などと聞いている人がいます。動物に対して敬語を使うことになるので不自然な感じになります。新聞の投書に「猫や犬にえさをあげる、花に水をあげるなどの使い方が気になる。"あげる"は与える、やるの謙譲語で人間が動物や植物に使うのはおかしい」というものがありました。"あげる"を単なる丁寧語として使う人が増えているのが現状ですが、中には気にする人もいるので注意しましょう。
 「拝見させていただきます」など敬語・謙譲語を二重に使うこともよくありがちです。「拝見します」で十分です。「ご安心してお使いいただけます」も、「安心しておつかいいただけます」と、先の言葉を普通の表現にした方がすっきりした言い方になります。

 「こちらにお名前様をお書きください」などと、名前に様をつける言い方を、売場ではよく耳にします。名前という名詞に様をつけると不自然な日本語になりますので、「お名前」が適切です。

■「お」のつけ過ぎに気をつけましょう

 丁寧に話そうとして、「お忙しいお仕事の前にお手入れをなさいますとお便利でございます」「お洗濯はお手洗いしていただけます」などやたら「お」をつけると奇妙な日本語になります。このような場合は「お」を少し間引くと、聞きやすい日本語になります。

また、おサイズ、おスーツ、おパン、おフルーツなどと、外来語に「お」をつけると、奇妙な日本語になりますので避けましょう。

同様に、「本日はお現金でお支払いされますか」などと「現金」に「お」をつけるのも不要です。

■レジでの正しい言葉遣い

 お客様に「変な日本語ではないか」としばしば指摘される言い方に、「OO円からお預かりします」というレジでの言葉遣いがあります。カードを預かる時にも、「OOカードからお預かりします」と言っている販売員がいますが、「から」は不要です。「OO円お預かりいたします」「OOカードをお預かりします」で十分です。「1万と3千円お預かりします」という言い方もよく聞きますが、「と」もない方がすっきりした表現になります。

「レシートのお返しでございます」もよく聞きます。レシートはおつりとは違い、店からお客様にお渡しするものです。「レシートでございます」が正しい言い方です。

■避けたい、うちわの言葉

「お見分け」「欠品」「客注」などの社内の言い方を、そのままお客様に話すことも、お客様にはいい感じを与えません。「お取りおき」「品切れ」「お取り寄せ」などお客様側にたった言葉をつかいましょう。
 売場名なども店で使っている「ベビコ」「
ドレコ」などという略称をお客様に使うことは、避けたいポイントです。

■ 乱れた言葉
乱れた日本語や流行の言葉が、接客場面に使われると違和感があります。例えば、「こちらのお色とかはいかがですか?」などと言う会話をよく耳にします。本来「〜とか」は「色とかサイズとか」というように物事を並列する時につかいます。ひとつのことだけを話すのに「とか」は不要なので、注意したいポイントです。

「結構、お似合です」など「結構〜」もよく使いますが、失礼に聞こえる場合もあります。「とてもよくお似合いです」など、「とても」「かなり」「よく」などをつけた方が良い感じになります。

「じゃないですか?」と疑問符で終わる話し方が若い人の間に広まっていますが、これも接客時には似合いません。「これは、入ったばかりの商品じゃないですか」「来週から、バーゲンじゃないですか」などといわれたらお客様は不快になるばかりでしょう。

ら抜き言葉も普段使っているとつい出てしまいます。「食べれます」「見れます」などの言い方は聞き苦しいので避けましょう。

乱れた言葉遣いでの接客は、友達感覚の店などでは増えています。「親しみやすくていい」「気にならない」という客層もいないわけではありませんが、一般的には、タブーと考えておいたほうがよいでしょう。

■お客様に呼びかける言葉
 初めてのお客様や名前を知らないお客様の場合、お客様に声をかける時の言葉にも注意がいります。
「おじいちゃん」「おばあちゃん」などと、優しく声をかけたつもりが、「年寄り扱いするな」と不快に思うお客様も多いのです。

奥様と言われるのも、独身の人には違和感があります。そうかといって、年のいった女性に「お嬢様」というのも、みえすいていて良い感じはしません。「お客様」がもっとも自然です。なによりも喜ばれるのは、お客様の名前をできるだけ覚えて、「OO様」とお名前で接客することです。

テレビのアナウンサーなどでも、正しい日本語は中々使えないと言われている時代です。そんな中で、きれいな日本語を話せる販売員に出会ったら、お客様は非常に好感を持つことでしょう。言葉は生き物。正しい言い方も時代の中で少しずつ変化しています。その時々の売場特性や客層に合った適切な日本語での、さわやかな接客が求められています。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
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