○「販売員は動くプレゼンテーション」

F's セールスエッセイ99年12月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
店頭でのビジュアルプレゼンテーションは顧客の購買意欲を喚起する大きなポイントです。その中でも、特に忘れてはならないのは、販売員自身が販売する商品を上手に着こなして、その商品の良さをアピールすることです。今、話題のカリスマ販売員は「販売員は動くプレゼンテーション」という言葉を再認識させてくれたような気がします。
 
 
■カリスマ店員の人気の秘密

 若い人に人気のカリスマ店員が、新宿の伊勢丹や柏の丸井などの大型店に進出して話題になっています。名古屋の老舗デパート丸栄でも、渋谷系ファッション導入のお披露目にカリスマ店員を呼ぶイベントを開催したところ、今まで来たことのない女子高生など若い女性が大勢押しかけ、その人気のほどを見せつけました。

カリスマという大げさな形容詞や、その派手ないでたちやヘア・メイクから、若者にだけ受けている特殊な現象であると見る向きもありますが、じっくり観察してみると、カリスマ店員は、それなりの理由があって、これだけのブームになっていると言うことがわかります。カリスマ店員人気の秘密から、若者を対象にする販売だけでなく、すべての販売にも通じるポイントを探ってみましょう。

@「商品が好き」

いまや、カリスマ店員の求人募集に何十倍もの応募があるといいます。若者に人気の商品の販売ができるため、「自分がファンになったブランドを自分の手で顧客に販売したい」人たちが集まっています。好きな商品だからこそ、セールスポイントがよく解り、説得力のあるセールストークができるのでしょう。その上、彼女達は、商品開発にも参加し、顧客の好みや要望などから得た情報や自分自身が欲しいと思う服をどんどん提案していると聞きます。企画に参加することで、ますます商品が好きになるという好循環が生まれているような気がします。このように、まず「商品が好き」なことが、カリスマ販売員の人気の理由と言えるでしょう。あなたは、今販売している商品を心から好きと言えますか?もし、そうでないなら、その理由を考え

好きになるよう努力してみましょう。どうしたら好きな商品になるかわかったら積極的に提案してみましょう。

A動くビジュアルプレゼンテーション

売れ残りの商品もカリスマ店員が身につければ、瞬く間に売れてしまうと言います。

そのため、カリスマ店員は、日に何度か着替えをして「試着販売」を行っています。スタイルの良いカリスマ店員が着れば、服の見栄えがいいこともさることながら、着こなしに自信を持って着ているのでよけいに良く見えてしまうのでしょう。そういえば、カリスマ店員のいる店は、入り口のウインドウは別として、店内にはビジュアルプレゼンテーションスペースが少ないようです。その代わりにカリスマ店員が動くビジュアルプレゼンテーションの役割を果たしています。マネキンに着せたビジュアルプレゼンテーション以上に、「動く」「しゃべる」生きた人間のビジュアルプレゼンテーションの方に説得力があることは言うまでもありません。まさに、カリスマ店員は「販売員は動くプレゼンテーション」という販売の基本を日々実行しているとも言えます。

店の商品を販売員がすてきに着こなしているとお客様にも商品の良さが伝わりやすいものです。あなたは、売っている商品をいつもおしゃれに着こなしていますか?直接見せるわけにはいかない下着などの商品でも、「今、私も付けていますが、とても着心地がいいですよ」などと使用体験を元にした顧客との会話が説得力を持つこと受け合いです。

B元気かつ丁寧な接客

 カリスマ店員のいる店は、お客が来店すると「いらっしゃいませぇー」と販売員全員が声を合わせて独特ののりであいさつしています。慣れないうちは面食らうほどですが、チームワークの良さ、元気さがあふれています。来店客も多いので、そのたびに「いらっしゃいませぇー」の大合唱がひびき、売場にリズムがあります。

また、顧客の質問や相談にはのり、お姉さん感覚でアドバイスしますが、無理な押し売りやしつこい接客は全く見られません。カリスマ店員は、商品に詳しく、かっこよいだけでなく、意外に丁寧な接客をするのも人気の理由の一つとファンは言います。親子で来店した客にも、親にはそれなりの応対をするなど、年齢に合わせた柔軟な接客に感心して帰ってきた人もいます。このように、元気かつ丁寧な接客も人気のポイントと言えます。あなたのお店ではどうでしようか?元気なだけでも丁寧なだけでもダメです。元気かつ丁寧かどうか見直してみましょう。

D売場は舞台、販売員はパフォーマー

 一般の販売員にはないカリスマ店員の特徴を挙げるとすれば「お客から見られている意識」ではないかと思います。カリスマ店員にとって、お客は観客。売場という舞台でお客の憧れの視線を浴びている意識がカリスマ店員にある種の緊張感を与えています。カリスマ店員は商品のモデルであり、顧客の憧れの人を売場で演じている女優とも言えます。そのことが、カリスマ店員のいる店に、単なるものを買う場以上の、役者やパフォーマンスを見る楽しさを作り出しているとは言えないでしょうか?姿勢、歩き方、着こなし、メイク、髪型、話し方、声かけ、商品の整理整頓、どれをとっても売場環境の中で絵になっているのは見られている意識がもたらしているものと思われます。

販売の心得として「素のままではいけない・演技力が大切」と言われます。しかし、私達が買物に行って出会うのはほとんどの場合「素のまま」の緊張感のない販売員です。  パフォーマンスとして販売を見せてくれる販売員に出会うことはめったにありません。あなたの売場ではどうでしょうか?たまには、得意の演技力を発揮して、お客をうならせてみませんか。

昔の小売店では、暇なときはお互いに「販売員」と「お客」になって売り方の練習をしたと言います。また、そうすることで、不思議と次の客が店に入って来るものだと言います。誰も客のいない店にお客は入りにくいものです。もし、機会があったらためしてみるとよいでしょう。演技力もつくことと思います。

■売場イメージアップの主役は販売員

カリスマ販売員というと、今、話題の厚底ブーツ・ミニスカートの販売員の姿形をどうしても思い浮かべて、特異なことと思いがちですが、カリスマ販売員に限らず、店をイメージアップするのは販売員の基本的な役割です。

一時のDCブランド全盛時代にはハウスマヌカンが話題を呼び、希望者が殺到しました。ハウスマヌカンは販売員のイメージも変えました。そのポイントは店で売っている商品を上手に着こなし顧客にアピールすることです。カリスマ販売員は、ハウスマヌカンにさらにパフォーマンス的な要素を加えて蘇ったものともいえます。

その店とぴったり合った雰囲気を持ち、売っている商品を上手に着こなし、さらに接客も感じがよく、商品をよく知り、質問には的確にアドバイスしてくれる販売員。どこそこのOOさんと名前で記憶される販売員。このような販売員には、顧客の言うことを聞くだけの受身なイメージはなく、顧客を良い買物に導くナビゲーターのイメージがあります。言い換えれば顧客との関係で、イニシアティブを取れる販売員とも言えます。買い手にとって信頼できる販売員、頼りにされる販売員は皆、カリスマ販売員の要素を持っていると言えると思います。

マニュアルだけの応対しかしないチェーン店のサービスが増える一方の今日、その対極とも言えるカリスマ店員は、人々が接客に求めるニーズにはまだまだ奥が深いことを示すものと言えます。

カリスマという言葉は広辞苑でひくと、「超人間的、超日常的資質、英雄・預言者などに見られる。」とあります。カリスマ販売員という呼び方は、この本来の意味からは、だいぶかけ離れています。しかし、これだけ話題になるのは、お客が、買物に「楽しさ」を販売員に「パフォーマンス」を求め始めている証拠と言えるのではないかと思います。

 
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 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
 
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