○さりげない創意工夫の真心サービス

F's セールスエッセイ2003年1月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
売れている店は、いつも店頭に創意工夫があふれています。創意工夫が感じられる店には、扱っている商品の大好きな、商品に惚れこんだ魅力的な人達がいます。たゆみない日々の創意工夫こそ、いつの時代もお客をひきつけるポイントといえるのではないでしょうか。
 
 
■ オビを変え、場所を変えて本を売りぬく

東京の老舗の本屋さんで、ちょっと他にはない売り方に、はっとしました。文庫本についているオビに手書きのメッセージが書かれていたのです。手にとってレジに持っていくと、手書きのオビがはずされ、最初に出版社がつけたオビが出てきました。この店では手書きのオビをPOP代わりに使っているのでした。平台に並べられた同じ本に、一冊一冊違うオビがついた陳列は、その本を薦めるこの店のささやきを伝えています。

オビは、その書店の文庫本担当の店員が手づくりでつけているそうです。お薦めの本にPOPをつけたり、書評のコピーを掲示したりする本屋さんは他にもありますが、オビに独自の推薦文を書いて並べている本屋は珍しいのではないかと思います。

オビを書くのは、読んで惚れ込んだ本だけで、年に4〜5冊あるかないかとのこと。閉店後、落ち着いて、30分から1時間かけて書きます。「時間の経過とともに、本の見方も変わり、オビに書きたいことも変わってくる」そうで、その都度、ひらめきで書いているそうです。その書店員は「最初から売れる本はない」といいます。売れなかったらオビを変え、場所を変えて売り、決して諦めないことが大事とのことでした。本は何もしなくても売れるのではなく、書店が志を持って売るものだという気概を感じました。こうした熱意がお客にも伝わらないはずはありません。惚れ込んだ本を諦めずに長く平積みして、ロングセラーにした例もいくつもあると聞きました。著者が評判を聞いてわざわざ店にたずねてきたこともあるそうです。

一般的には、東販と日販という本の2大卸から配本される商品を、そのまま並べて売っている本屋が多いと聞きます。そのため特別な知識やノウハウを持った人材がいなくても本屋の運営はある程度やっていけるといわれています。一方、最近の若者の活字離れなどにより、書籍全体の売上はダウン傾向で、書店数も減少しています。しかし、この書店では、本が売れないのは、本の数が多すぎて玉石混交のためで、ハリーポッター現象が示しているように、いい本は確実に売れると考え、惚れこんだ本を絞り込んで売っています。文庫本コーナーだけでなく、文芸書、コミックなどでも、担当者が独自の視点で選んだ本をお客にわかりやすく楽しく紹介するため、並べ方やPOPなどに色々な創意工夫をこらしているのが見てとれます。本好きの熱い思いが伝わってくるこの店は、いつもお客で賑わっています。

■ディスプレイの工夫でお客を呼び、来店客を離さない

東京の商店街の中にあるブティックで、2階という不利な立地ながら好業績を挙げている30代・40代向けの婦人ファッション店があります。商店街自体は、ご多分にもれず客足は減少していますが、このブティックは今年も対前期比を大きく上回る業績を挙げています。

2階にあるこの店では1階の階段下にちょっとしたVP(ビジュアルプレゼンテーション)スペースがあります。マネキン2台のミニスペースで通りすがりのお客の目をどれだけひきつけるかが勝負のしどころです。この店では、暑さ寒さ、新商品の入り具合などいろいろな要素を考えながらビジュアルプレゼンテーションを常に工夫しています。雨の日にはさっと雨傘をディスプレイに加えたり、少し寒くなってきたら、シャツやブラウスにカーデガンをはおらせたり、何週何曜にといった決まりきったローテーションではなく、きめこまかく変化させています。こうした工夫が2階までお客に足を運ばせるポイントになっており、「ディスプレイが気になって…」と店に入って来る客が一番多いそうです。入り口には招き猫ならぬ招きインコの鳥かごが置かれ、お客様とのコミュニケーションのきっかけづくりに一役かっています。

来店したお客様にはできるかぎりのすべてのコーディネートを見せて、一つの商品の価値観を最大限にわかってもらうようにしています。「お客様にできるだけ多くのコーディネートを見せてさしあげることが販売力につながる」と店長はいいます。一度のコーディネートで5、6点のアイテムを組み合わせて見せ、お客に「なるほど、こんな着方もできるのね」と実感してもらうことがポイントとのこと。そのため1人のお客様の接客に相当の時間をかけます。通常、女性はどうしても着慣れたデザインや色を選びがちですが、色々な服を組み合わせて着てみると意外な服が似合ったり、着られないと思っていた服が着られることがわかったりします。その結果、その場で数点の買い上げにつながることも多々あるそうです。衝動買いをしないタイプのお客様の場合、その時は決まらなくても、後から「どうしても気になって」と再来店して購入することもあると聞きました。様々なコーディネートを試すことで、お客様自身が今まで気づかなかった「新しい自分」を見つけることもあります。さらに、購入後、同店で買った服を友人に誉められると、「あの店で買ってよかった」と信頼感が増し、固定客になることが多いそうです。

■ 他店にないサービスで飛躍 

金沢に人気の持ち帰り寿し弁当店があります。その創業者は、あるとき故松下幸之助氏の講演を聞く機会がありました。そこで、「雨がふった時に傘を差し出せば喜ばれるが、晴れているときに傘は無用で迷惑なもの」という話を聞き大変感銘を受けたそうです。

自分の商売ではなにをしたら'雨の日の傘'になるだろうと考えてひらめいたのが、「当日朝、雨なら予約キャンセルOK」でした。この店では、店売りだけでなく、イベントの仕出しもしていました。このことを新聞広告で思い切って告知してから、北陸の大きなイベントのお弁当の受注を押えることができ、発展の契機になったそうです。

運動会や遠足などの野外イベントで多数のお弁当を注文して当日中止になると、お弁当が無駄になります。イベントの担当者にとって、当日の天候次第でキャンセルできる店は、安心してお弁当を頼むことができる心強い味方です。講演で聞いた話を自分の顧客のためにどう応用したらよいか、知恵を絞って提案したことが現在の発展につながりました。
この会社の最近のヒット商品に「ついたち一日弁当」があります。なにか新鮮な企画をと会議をしていた時に、伊勢の赤福ではついたち一日餅を毎月一日だけ販売していて人気があるとの話から「ついたち一日弁当」の発想が役員の1人から出たそうです。そこで、毎月一日にだけ出すお弁当を780円で販売したところ、大変な人気で、今では、一日を楽しみにしている顧客もいるそうです。この店の寿し弁当を利用したことのないお客までが一日弁当にひかれて新しい顧客になることで、新規客の拡大にも効果が出てきました。商売では「他店の良いところは真似してもせよ」とよく言われます。一日弁当はその好例といえます。

この会社ではバラエティ豊富に多種類の寿し弁当を出していますが、どれも「この内容でこの値段は安い!」と思わせる価格設定をしています。その秘訣は、パートさんに意見を聞いて価格を決めることだといいます。たゆみない日々の創意工夫が、この寿し弁当の人気に繋がっているといえます。
 
 今年もあとわずかですが、小売業にとって厳しい環境はまだまだ続くことが予想されます。そんな中で、ちょっとした創意工夫でお客様をひきつけている店をいくつかご紹介しました。

お客様には、ちょっとした創意工夫に見えることでも、その背景には、その仕事に関わる人々の熱い思いや、売る商品に対する実体験に裏打ちされた自信があります。売る商品を好きになる・ほれ込むことから生まれる、諦めない力が顧客に'他にはない何か'を伝えます。あなたの店でも、できることから初めて見ませんか。お客様からの違った反応が返ってくることが必ずや期待できると思います。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
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