○だから私はこの店に行きたい

F's セールスエッセイ2002年9月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
お客様の生の声には、いつでもはっとするものがあります。筆者が監修させていただいたお客様投稿集「だから、私はこの店に行きたい」(商業界刊)には、お客様の買物体験時の感動あるいは失望がリアルに表現されています。今回はそのポイントを新しい視点を加えてまとめてご紹介してみましょう。
 
 
■ 愛される店7つの法則その1―期待を上回るサービスをする。

「えー、そこまでやってくれるの!」と驚くようなサービスにお客様は感動します。
例えば、西友とパートナーを組み日本進出に注目が集まる米国のディスカウントストア「ウォルマート」で、あるお客様が出会った感動のサービスをご紹介しましょう。17ドルのつもりで買った布団が帰ってレシートをあらためると38ドルになっていることに気づいたお客様は拙い英語力できちんと通じるだろうかと心配しながらウォルマートに出かけます。しかし、出会ったのは間違いを素直に認める笑顔笑顔の接客でした。お金も無事戻りました。異国での爽やかな出来事にお客様は感動しました。さすがに、世界ナンバーワン小売業ならではと思わせるサービスです。

競争の厳しい今日、顧客満足(カスタマーサティスファクション)を超えた顧客歓喜(カスタマーデライト)を目指すべきだと言われています。お客様の期待を上回るサプライズサービスこそ、「また、あの店に行きたい」気持ちを起こすサービスといえるのではないかと思います。

■ 愛される店7つの法則その2−お客を心からもてなす

心のこもったもてなしに感動したお客様は、その店が好きになります。例えば、あるお客様は閉店間際にギフトをお願いしようと駆け込んだ小さなカフェで、お客に全く時間を気にさせないもてなしを受けました。焼き菓子をギフト用に包装をする間、椅子をすすめコーヒーまで出してくれたのです。さらに「ご用意できたので、いつでもどうぞ。ごゆっくりお召し上がりください」と決して時間を気にさせないような配慮の言葉をかけてくれたことにお客様は感心しました。

スピード時代といわれていますが、その一方で「スロー」というキイワードが注目されています。スローフード運動はイタリアのジャーナリストがローマにマクドナルドが進出した時にファーストフードに対してスローフードというアンチテーゼを唱えたもので、ファーストであじけない食生活に疑問を持つ世界中の人々に静かな広がりを見せています。

 顧客サービスでも、マニュアル一辺倒のファーストフード的サービスに飽き足りない人々が増えています。価値のある商品には、その価値にふさわしい高質なサービスを求める傾向はこれから強まっていくでしょう。心のこもったおもてなしは、その中核になるものだと思います。

■ 愛される店7つの法則その3−一人一人の個客を大切にする

お客様は「私のことを覚えていてくれる」店が好きになります。
あるお客様は、学生時代によく通っていた喫茶店を4年ぶりにおとずれました。その店ではブラックコーヒーしか飲まないお客様の好みを覚えていました。久しく行ってなかったのに、自分のことを覚えていてくれたこの店にお客様は感動しました。

客の好みや以前購入した商品を覚えている店は、お客にとって、ストレスがなく快適です。大勢の接客をする売場では一人一人の顧客の動向を記憶するのは難しくなりますが、ノートやパソコン等に顧客情報を記録し、再来店の時に活用することでカバーできます。一人一人の顧客をかけがえのない個客として扱う店に人は集まります。

■ 愛される店7つの法則その4−専門的な知識や技術でお客様の問題を解決する

困っているお客様の問題を専門的な知識や技術で解決できるプロの販売員がいる店は顧客に信頼されます。
あるお客様は、いつも行く衣料品店の女性店主の接客が気に入っています。この店主はお客様に似合うと思う商品は多少強引でも薦めます。店主が人と服には出会いのタイミングがあり、それを逃すと本当に似合う服にはなかなか出会えないという信念を持っているためです。その代わり、似合わないと思ったら絶対に薦めません。強引に思えても、結果的に似合うものを薦めてくれるので、買った服に満足しているお客様は、自分にぴったりのものを見分けるプロの接客が気に入っています。

 このように、深い専門知識や経験を持ち、顧客にぴったり合うものを薦めたり、顧客の難問を解決したりすることができるのがプロの販売員です。プロの販売員のいる店にはお客様が集まります。

■愛される店7つの法則その5−お客の立場にたった言葉を選び気持ちの良い会話をする。

その一言で買う気になる、そんな必殺技を持つ販売員のいる店をお客は好きになります。例えば、デパートで気にいった服を見つけ、買おうかどうか迷ってしまったお客様がいました。いったんその売場を離れたもののやっぱり気になり戻って来たお客様は、販売員の「今までいろいろな人が着てみられたけど、あなたが一番似合っている」との一言で購入を決めました。お客様は買物する時に迷うことがあります。そんな時販売員がお客様の立場にたって決め手となる一言を伝えることはお客様には大変助けになります。逆に販売員の心無い一言でもうその店には2度と行きたくないと思ってしまうお客様もいます。お客様が納得する一言の言える販売員は貴重な存在といえます。

■ 愛される店7つの法則その6−買わない時にもお客に親切にする。

お客様は買わない時の親切を忘れません。

あるお客様はデパートで、スーツの上着に合わせるスカートを探していました。微妙な色のため、合うスカートがなかなかありません。その時、中途半端な商品を無理に薦めるのではなく、「微妙な色なので、スーツのまま着てカジュアルな感じを出したいのならブラウスやスカーフで変化をつけてみては」とアドバイスする店員さんに出会いました。なにひとつ買うことはなかったのですが、その後信頼して服選びのたびにその店に行くようになったということです。

買わない時の親切は強く顧客の心に残り、その後、なにか買いたいと思った時にその店を思い出すことに繋がります。買わないとわかった途端態度豹変するお店が多いので、なおさら印象に残ること請け合いです。

■ 愛される店7つの法則その7−すべての人に優しい店にする

ハンディキャップのある人や子供連れのお母さんには特別な配慮や対応が求められます。どんな人にも優しい店に人は集まります。

例えば、ある耳が全く聞こえないお客様には10年程前、百貨店の化粧品売場での苦い経験がりました。「耳が聞こえないのでよろしく」と言ったら、若い店員に「ワーどうしよう」と騒がれ、周囲のお客の視線まで集まってしまい買物どころではなくなってしまったのです。その後百貨店から足が遠のいていましたが、新聞で従業員対象に手話講習会を開いている百貨店の記事を読み、出かけて手話通訳を頼んでみました。今度は、通訳が一緒に売場に行き詳しい説明も通訳してもらいながら満足して化粧品を買うことができました。すっかり気に入ったお客様は、それ以来その百貨店への買物を楽しみにしています。

施設面でのバリアフリーはだいぶ進んできましたが、接客や案内などソフト面でのバリアフリーにはまだまだ不十分な面があります。万人にとって安全で信頼できる「優しい」店が求められています。

 以上お客様の声のエッセンスを簡単にご紹介しました。101篇の投稿作文のなかから、ほんの一部のご紹介しかできないのが残念です。ご興味あるかたは本屋さんで手にとってご覧いただければと思います。

お客様の本音を通して見ると、お客様はちょっとした親切や気配りで、お店を好きになることがわかります。「だから、私はこの店に行きたい」と、お客様に選ばれるためには、1にも2にも販売員の在り方が鍵を握っているといえそうです。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
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