○グッドタイミングサービス

F's セールスエッセイ2001年7月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
どんなに良いものでもタイミングが悪ければ売れません。お客様の欲しい時、買いたい時にジャストフィットするには、お客様のライフスタイルや買物心理をよく知ることがポイントです。今回はグットタイミングなアプローチについて考えて見ましょう。
 
 
■顧客の暮らしの情景を浮かべてアプローチ

先日、ある年配の方から「長いつきあいの老舗百貨店が最近なかなかがんばっている。」との話を伺いました。「正月1日に立派なダイレクトメールが届いた。中にランドセルのカタログがあるのに感心した。その年代のお客であれば、たいていは孫がいる。百貨店からのダイレクトメールをゆっくり眺めているところに、孫が遊びに来たら、そういえば、今年は入学だったな、ランドセルをプレゼントしよう、さっきのダイレクトメールにも載っていたし…ということになる。こうしたお客の情景をその店はしっかりつかんでいる。正月にダイレクトメールがつくように届けるタイミングが絶妙だ」というお話でした。その百貨店では暮れの忙しい時期に正月の1日か2日に必ずダイレクトメールが届くように手配するのに大変だったことでしょう。しかし、その熱意は無駄にはならず、お客様に伝わったようです。

■ぎりぎりまで待ってグッドタイミングを逃さない。

 東北のある百貨店では、日替わりで、全国から有名な和洋菓子を集めて売る直営売場が好評です。そこのバイヤーに聞いたところ、
「販売する商品はぎりぎりまで決めない」という話でした。ラジオやテレビなどで取り上げられると、売場に人がわっと押し寄せます。

そのタイミングを逃さないように、いろいろな情報のアンテナをはりめぐらせて、ぎりぎりまで最適な売り出しタイミングを計っているのです。雑誌やテレビ・ラジオなどで取り上げられて、せっかくお客様が来店しても、その時に商品がなければ、売り逃がしてしまいます。情報をいかに集められるか、そのための情報網を日頃からどう作るかが、グッドタイミングな売り出しには欠かせない要件になると言えるでしょう。

■お客をジラして創るグットタイミング

グットタイミングは待つだけでなく創ることもできます。デパ地下でいつも行列をつくる洋菓子屋の社長の話では、「一度にたくさんつくらず、少しずつ販売する」のが行列をつくるコツだそうです。例えば焼き菓子のようなものならオーブン一台分だけつくります。それが売り切れたら、もう一度焼きあがる*時間後までお待ちくださいというわけです。デパートやショッピングセンターの中ですと、お客様は多少の時間なら、他の買物をすませてまた戻ってこようという気になります。そうすることでいつも行列をつくり話題が口コミで伝わります。ただし、おいしくなければリピ−ターには繋がりませんが、おいしい上に中々買えないとなると少し並ぶくらいは我慢しても買ってみたいというのが消費者心理のようです。先日若い人達とこの話をしていたら、「同じものでもなぜか行列しているお店で買ってしまう」という人もいました。行列している店のほうが同じものでも美味しいのではと思ってしまうのだそうです。

 最近の若い人に人気の原宿などのファッションやカバンの店でも同じような傾向が見られます。人気商品の数量が限られているので、新しく商品が入荷するとすぐ売り切れてしまいます。商品が十分にないことが購入意欲をそそるのです。待ちに待った商品が、出てきた時が若い人にとって買物のグットタイミングなのでしょう。

■ 展示会やセールの案内もタイミングが大切

せっかくの売場からのイベントやセールの案内は早すぎず遅すぎないタイミングが肝心です。早すぎると、お客様はだいぶ先のことだからとダイレクトメールなどをどこかに放って置くうちに忘れてしまいます。あまり間際だと、すでに予定が入ってしまい都合がつきません。ふところ具合もタイミングによって違います。セールの開始日は給料日が集中する25日過ぎの1週間やボーナス支給日後の1週間などにすると回収率が高いと聞きます。最近ではクレジットカード支払いが増えたため、必ずしも給料日には左右されなくなっていますが、カードの締め日の翌日などは、人々の買物意欲も高まる傾向があるようです。こうした諸条件を考慮して、セールや売り出しを企画し、お客様に適切なタイミングでアプローチすることも大切なポイントと言えます。

■ 天候の変化にも機敏に対応したい

暑くなればビールやTシャツや水着が売れ、寒くなればコートや防寒肌着が売れます。

雨が降れば傘が、雪が降れば長靴が売れるというように、天候の変化に合わせたグッドタイミングな売り出しも重要です。先日も外出中に急な雨に合いました。カジュアルブランドショップに飛び込むと、傘はおいてないとのことでした。隣の書店には、まさかと思った傘があり手頃な価格だったので、すぐ求めました。こうした機敏な対応は今困っているお客にとってグッドタイミングなサービスといえます。明日着る服を買いにきた顧客には明日の天気予報などをあらかじめ入手して、さりげなくアドバイスすることなども大変喜ばれます。今はインターネットなどで、各地の天気予報などをいつでも入手することができますから、そうした情報を上手に生かしましょう。また、気温の変化によって、急に暑くなったら、Tシャツやタンクトップなどお客が欲しいものを売場の前面に出すなど、変化への機敏な対応がポイントです。コンビニエンスストアなどでは、ある一定の温度を越すとエンド陳列に殺虫剤など季節の必需品が並べられます。気候や温度は全国一律ではなく、地域差が大きいものです。その地域にあった売場独自の工夫が必要な部分だと言えましょう。

■ 接客アプローチもグットタイミングで

接客では、お客様へのアプローチは早すぎても遅すぎても好まれません。今日は見るだけのつもりのお客様の場合、「いらっしゃいませ」の挨拶程度で、ほっておかれることを望まれる場合も多いものです。それなのに、あれこれ販売員から熱心なアプローチをされると、売場に居ずらくなり、じっくり商品を見ることができません。反対に、商品を気に入り、手にとってみたりしているのに、販売員が声をかけなかったり、色違い・サイズ違いなどを尋ねようとしているのに、販売員が見つからない場合も、お客様の不満は高まります。お客様が商品に興味を持ち、もう少し詳しく聞きたいと思う時がアプローチのグットタイミングです。

お客様は商品を選びいざ買おうとする時、待たされるのを最も嫌います。「なぜこの店で買ってしまうのか」(パコ・アンダーヒル著 早川書房)という本では、買物客の待ち時間についての考察があります。レジの列に並ぶお客に、とりあえず声をかけたり冗談を言って笑わせたりする応対係を置くことで、お客は実際の待ち時間を少なく感じることができた事例を挙げ、従業員が対応を開始した後の待ち時間は、それ以前の待ち時間より短くなるというデータを紹介しています。

対面販売の場合でも、複数のお客様のどちらかをお待たせする場合に「少々お待ちください」などとタイミング良く一声かけておくだけで、お客様は「わたしのことをわかってくれている」と安心して待つことができます。飲食店などでも、グットタイミングな対応ができる店は他の店とちょっと違います。

例えば、お客様が席につくとすぐにおいしいパンを出すレストランがあります。とりあえずパンが出ているので、そのあと多少待たされてもお客はイライラしません。居酒屋でもまずさっと飲み物の注文をとって出す店は人気です。その秘訣は、とりあえずさっと何かサービスするという極意にあります。そこでお客は落ち着き、多少混んでいて、後のサービスが遅れてもゆっくり待つことができるというわけです。

以上、いろいろな場面でのグットタイミングなアプローチについて考えて見ました。グットタイミングなアプローチが出来るためには日頃からお客様をよく見ることや人間心理や生活を深く知ることが大切です。そして、確信が持てたらすぐ売場でトライして見る行動力がポイントではないかと思います。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
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