○自分流”納得できるサービス”のススメ

F's セールスエッセイ2001年4月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
究極のサービスとは、「自分自身がして欲しいサービスをお客様にしてさしあげる」ことではないかと思います。厳しい時代の中で、しっかり生き残っているお店には、この鉄則が生きています。迷った時には「私がもし、お客様だったら、どう思うか、どう感じるか」と考えてみましょう。きっと良い答えが出てくることと思います。 
 
 
■ 「私だったら」を基準にサービスを発想

 東京に2店の美容室を経営する、有名女優などのファンも多い美容師の話では、「一時のカリスマ美容師の時代は去り、今また技術のしっかりした女性の美容師が見直されている」そうです。カリスマ美容師は、一時はアイドル的人気で、お客がサインを貰いに押しかけるという尋常ならざる光景までありました。ところが、カリスマ美容師のところに行くと、皆同じヘアスタイルになってしまいます。お客の個性にあったヘアスタイルではなく、カリスマ美容師のお仕着せのスタイルでしかありません。カットはできても、基礎をやっていないので、パーティでのアップスタイルなどが出来ない美容師もいました。そのためブームが終息するのも早く、お客も離れていきました。今は、「若い人にも、TPOに合わせた、自分に良く似合うヘアスタイルを作ることのできる美容師の人気が復活してきた」とのことです。「うちはもともとコンサバエレガンスの店、カリスマ美容師全盛の時は、ファッション雑誌の取材も途絶え、若いスタッフを納得させるのに気を使った。技術を磨けば必ずお客がついてくると言っても、若い人は華やかな人気に目がいってしまう。しかし、今は、ファッション誌等にも、再びうちが頻繁に取り上げられるようになり、若いスタッフも生き生きしている。」と話すオーナーは自信に満ちています。

「一人一人の個客にあったヘアスタイルを作るのが美容師の仕事、それには技術が基本」と考えるオーナーはまた、「今、流行の外から丸見えのサロンも、私がお客だったら行きたくない。美容室は言わば女の楽屋裏、それを見せてどうするの。カットでもそうだけれど、まして、パーマやヘアダイをしている姿を見せたいと思うかしら」と懐疑的です。彼女のサロンは、入り口はオープンですが、施術中の顧客の姿は、外から全く見えない設計になっています。話しているうちに、彼女の言葉の端々に出てくる「私だったら」というキーワードに気がつきました。25年間、店を着実に育ててきた理由はここにあるようです。「自分が嫌なことは客にもしない、自分が好きなこと・して欲しいことだけをお客にする」という姿勢が、固定客を逃がさず、店を繁盛させているポイントと見受けました。

■ 自分の欲しいものだけをお客に提供する

セミオーダーで、服を作って売る店があります。お店のコンセプトは<ナチュラル>で、シルク素材しか扱いません。店内の雰囲気もお店のコンセプトにぴったりした、気持ちの良い、なごめる空間になっています。その中にきれいな色のシルク素材の着心地の良さそうな服が並んでいます。いくつかのサイズのサンプルが展示されており、その他のサイズの商品は、お客の注文に合わせて、店奥のアトリエで作ります。ポケットをつけたり、ボタン位置をずらしたりといったちょっとした顧客の我儘も受付けます。それでいて納得価格なのは、顧客の注文を受けながら作るため、在庫が少なくて済むためです。

デザインや生地のセレクションを担当するコーディネーターの女性は「私も含めて、これからの女性はブランドではなく、服の存在感を求めている。着て気持ちの良い服であることがなにより大切なこと」と考え、世界中から最高級の生地を集めています。アトリエでは、素晴らしいパターン技術を持つ女性が中心になって服作りをしています。

顧客層は30歳から80歳までと幅広く、一度に5〜6点買い、色々組み合わせて着こなす人も多いとのことです。お客から頼まれれば、先シーズンに買った服のリフォームまで引き受けます。「服を捨てる時のすさんだ気持ちは、私も嫌だし、顧客にも味合わせたくない」という考えから、いったん買った服は直してでも長く身につけて欲しいと考えているためです。開店一年で、多数のファンがいる理由もうなずけます。ブティックの上階のレディスクリニックを訪れる女性が、医師から「自然素材を肌につけるように」とアドバイスされ、立ち寄るケースもあります。この店のファッションコーディネーターは、自分自身が納得できる、素材、デザイン、価格にこだわっています。その上で、顧客の体型にあったバランスの良いシルエットの服を提供できるよう、優れたパターン技術を持った専門家を置いています。どんな良い服でもサイズが合わなければ気持ちよく着られず、結局はタンスのこやしになってしまうからです。店のスタッフの「私が着たいもの、して欲しいサービス」から発想した商品とサービスが顧客を惹きつけるポイントになっています。

■ 私の生活課題をサポートするサービス

東京のある地区の分譲団地で、仲介シェア70%近くを誇る地域密着型不動産仲介会社を経営するのは、団塊世代の女性です。もともとは、営業所だったところを、社員もそのまま分社独立し、社長となりました。この会社では「お客様が入居した時からサービスが始まる」をモットーにしています。たとえば、「引越し時にお赤飯をお届けするサービス」は、引越し日をあらかじめ聞いておき、終わった頃を見計らって暖かい赤飯を届けるというサービスです。入居2ヵ月後に「不具合はありませんか」と訪問、小修理であれば、すぐ対応します。契約1周年には社長自らがお花を届けるサービスに出向きます。また、契約翌年の2月から3月ころにかけて、税理士3名を招き、個別に無料の「確定申告相談会」を開催します。すべて同社のオリジナルサービスで、地域ナンバーワン店として必要なサービスだと考え、行っています。こうしたサービスの延長として、顧客の会員制クラブを組織しています。ビジネスで得た利益を還元し、相続・贈与セミナーやワインセミナーなどを開き好評です。顧客の生活課題に対応して、住宅設計、リフォーム、インテリア、不動産鑑定、税金・相続、年金、社会保障、資産運用、金融、家庭医学などの専門コンサルティングスタッフをネットワーク化し、幅広い相談にのれる体制を整えています。

同社が掲げている戦略は、「ファミリー1000計画」です。ご縁のあったお客様とは、生涯のおつきあいになり、「一人のお客様から、いろいろなサービスを通じて、一千万円の取引を」というわかりやすい戦略です。例えば、5千万の中古マンションの仲介手数料が3%で150万円、入居にともなうリフォーム工事で、200万円から500万円、その他知人・親戚などの紹介など含めて1000万円の取引をという考え方です。

「高齢化社会の進展は、親や息子を近くに呼び寄せるニーズを生む」と、自身の経験を通して社長は見ています。同社の提案は、同居ではなく、近居。同じ棟の別々のマンションに親世代と子供世代が住み、雨の日でも気楽に行き来できるメリットを居住者の体験を踏まえて、提唱しています。

昭和63年6月から毎週一万部の地域情報誌を発行、「地域に役にたちながらコミュニケーションのとれる、捨てられないチラシ」を目指しています。2000年を記念して111頁の「分譲白書」も刊行しました。また、賃貸管理や空室管理などまで、きめこまかいサービスを行っています。このような徹底した地域サービスにより、地域ナンバーワンの位置を確保した同社では、紹介客の増加、成約スピードの速さが、広告費などの削減につながり、高い利益率によって、顧客サービスも充実するという好循環を呼んでいます。社長自身も商圏に住み、肌で感じた生活感をベースに「私だったら、解決して欲しいサービス」を徹底していることが、好業績に繋がっています。

 期せずして、今回取り上げた3つの事例のキーパーソンは全て女性でした。生活実感の豊富な女性にとって「私が欲しい商品、私が欲しいサービス」は、顧客のニーズに合致することが多いものです。この頁の読者も女性が多いことと思います。自信を持って、「私のして欲しい」サービスを実行して見ましょう。それは、きっとお客様が求めるサービスだと思います。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
 
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