"楽しさ”と”共感”を創造する販売術

F's セールスエッセイ2000年12月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
 「必要だから買う」のではなく、「買物すること自体が楽しいから買う」「わくわく・どきどきする感じを味わいたくて買う」お客様が増えています。これからは、買物の価格価値だけでなく、楽しさや共感などの経験価値にも目を向けてみる必要がありそうです。
 
 
■ 高くても買ってしまうネットオークションの魅力とは

インターネット販売の中でもお客が自由に値段をつけ、最高値をつけた人の手に品物が落ちるネットオークションが人気です。ネットオークション全体で、どのくらいの市場規模になるのかは業界統計などがないため不明ですが、市場が伸びていることは確かだと思われます。落札手数料が安い、ないしは無料のオークションサイトには、数多くの商品が集まっています。一日の落札金額が4億円を越えるオークションサイトもあるほどです。ネットオークションの人気の理由は、日本シリーズやオペラ・コンサートなどの入手困難なチケットや欲しいのになかなか手に入らないレアもの商品などを探しやすいことだと言われています。しかし、体験者によると、ネットオークションの魅力はそれだけではないようです。ネットオークションに参加すると、競って入札価格を入れるうちに熱くなり、そのスリリングな雰囲気にハマってしまう人が多いと聞きます。実際に購入できた時には値段が最低価格の数倍に跳ね上がっている時もあります。それでも、入札できた時の嬉しさは格別で、相対的に高く購入しても、買物満足感が高いという不思議な現象が起きています。

■ アウトレットショッピングモールでの買物の楽しみとは

2000年に人々の人気を集めたものにアウトレットショッピングモールがあります。大規模な本格的アウトレットモールが各地に出来て話題になりました。人々はアウトレットショッピングモールに、単に安く買物を済まそうという目的で出かけているのでしょうか?もちろん価格の安さもアウトレットモールの魅力の一部には違いありません。アウトレットモールは、そもそも通常店舗の売れ残り処分のためのショップを集めたものです。そこには、たまたま売れ残った超お買い得品がある時もありますが、「安いからあそこで、**のための服を買おう」と思って出かけても、必ず目的のアイテム・色・サイズの商品があるという保証はありません。場所的にも郊外のさらに奥地に立地していることが多いので、買物の時間コストパフォーマンスが良いとは決して言えません。

このようなアウトレットモールでは、人々は、行楽気分で掘り出し物を探す楽しみを味わっているようです。「目的のものをできるだけ速く安く買う」という合理的な買物スタイルとはかけ離れたところに、アウトレットモールショッピングの楽しみがあるのです。

■ 身近で海外ショッピングを疑似体験できるスポットが人気

2000年秋に渋谷に出来た、韓国の東大門市場も、旬の商品を安く、早く、小売と卸の機能を合わせもつ新しい流通形態として注目を集めました。売り方・見せ方を韓国・ソウルの東大門市場そのままに再現してあり、日本にいながら韓国旅行での買物気分を味わえます。もともと安い価格が、交渉次第でさらに価格が2〜3割下がることも魅力になっています。じゃんけんで買ったら2割引になるなど買物ゲーム的な演出も行われています。ここでも、単に良いものを安く手に入れるだけではない、買物自体の楽しさが人を呼んでいます。

■ そこでしか感じられない感動・満足を目指すイクスピアリ

2000年夏に東京ディズニーランド隣にオープンしたイクスピアリは、日常生活をひと時忘れさせるような架空の街です。物販・飲食店のほか、3500席を持つシネマコンプレックスや子供のための施設などがあります。イクスピアリのイクスはExperience(経験)からとった言葉で、「そこでしか感じられない感動・満足を与える」ことを意味しています。「ザ・コートヤード」「ミュージアム・レーン」「ガーデン・サイト」「トレイダーズ・パツセージ」「トレイル&トラック」「B'ウエイ」「グレイシャス・スクエア」「シアターフロント」「チルドレンズ プレイ&ケア」の9つのテーマゾーンに分かれ、街をあちこち探検する楽しさが味わえます。インモール(屋内)とアウトモール(屋外)が交互に現われる設計になっている変化に富んだ設計も、他の商業施設にない新しい特徴です。直営店が21店あり、テーマレストラン「レインフォレストカフェ」の日本一号店ほか、イクスピアリにしかない個性的な専門店が多数入っています。独自性の高い商業集積としても注目を集めています。「もの」に満ち足りた現代の人々にとっては、買物はものを買うための手段ではなく、買物そのものが楽しい経験でなければならないのです。そのような買物心理が膨らむ中で、イクスピアリには相変わらず大勢の人々が訪れています。

■ 顧客との経験共有によるファンづくり

バッグの製造販売の吉田オリジナルは、定期的に工場見学会を行うなど、お客様との共有経験づくりに力を注いでいることで有名です。お客は、バッグが作られている製造工程を見ることで、同社の製品に、より愛着を深めます。また、工場見学に来ている顧客のなにげない質問の中から、バッグについてのお客様の声を収集し、ものづくりに活かしています。同社では、工場見学以外にも、顧客を招待しパーティを開いたり、バッグのお手入れ会を実施したりするなど、お客との交流に力を注いでいます。お手入れ会では、お客の手元に渡った商品がどのように使われているのか、使いこむとどのようになるのか、使っているうちにどのような問題が発生するのか、などお客からの貴重な情報を得ることができます。また、パーティは有料にも関わらず大変人気で毎年大勢のお客様を集めています。同社では、いろいろな機会を通じたお客との経験の共有が、根強いファンを育てています。

■ 価格競争を乗り越え、新しい買物価値の創造を
 
 ユニクロや百円ショップ、マクドナルドの半額バーガーなど価格価値の話題に終始した2000年でした。いつの時代にも、日常的な買物については、良いものを安く・速く提供することが顧客を集めるポイントでしょう。しかし、全ての人々が、買物に価格価値だけを求めているとは限りません。むしろ、これからは「できるだけ安いものを求める価格価値」と「買物自体に楽しい経験を求める経験価値」に買物価値が2極分化していくものと思われます。21世紀の成熟した消費者は、買物の新たな楽しみ方を求め始めているように思われます。それは、下記のような今までにない新しい買物スタイルです。

● ゲーム感覚で買物のプロセスを楽しむ
● 買物の経験から感動や共感を味わう
● 単にものを買うだけでなく、売り手とのワンツーワンの交流をする
● 買い手同志の交流を楽しむ

モノやサービスを超えた価値を提供する「経験経済」の時代がくると言われています。
お客様が買物に求める価値観にも変化の兆しが見えます。

売場では、お客様との「感動」や「共感」をいかに創造できるかがポイントになるでしょう。その主役は、言うまでもなく販売員です。販売員は売場でのお客様の感動や共感を創り出す演出家であり、パフォーマーでもあります。

 「服を売るのではなく、変身の感動を与える」「靴を売るのでなく、快適なウォーキング体験を提供する」など、お客様に新たな感動や共感を提供することこそが、これからの販売員には求められています。
2001年には、売場に再び夢や感動を呼び戻しましょう。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
 
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