○顧客満足は「気づく」ことから

F's セールスエッセイ2000年8月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
接客では、お客様の気持ちに「気づく」ことが大切です。「気づかない」ために、販売機会を逃したり、お客様の不満や不信をかったりするケースが数多くあります。顧客満足を高めるため、「気づく」力の、更なる向上について考えてみましょう。
 
 
■ 「気づかない」ことが問題

人はあることに気がつくと、視野が開け、今まで、目や耳に入らなかった情報が入ってくるようになります。逆に、そのことが全く念頭にないと、目の前に起こっていることでも中々気がつきません。

 ある百貨店で、「お客にあいさつしない販売員がいる」「商品を見ているのにアプローチがない」などのお客様からの声が多いことを販売員に示したところ、「信じられない!」「ありえない!」と、販売員は皆びっくりしたそうです。販売員はトレーニングを受けて売場にたっているプロばかりです。そうした反応はむしろ当然と思われます。では、「なぜお客様は、そう思ったのか、どうして売場でそのようなことが起きたのか」と考えていくと、問題は、販売員が、気がつかない間に、そうしたことが起こっているということに在りました。販売員は何か他のことに気をとられていたのかも知れません。別のお客様の接客で忙しかったのかも知れません。お客様の存在、お客様の動きが目に入っていないのです。気づいていれば、ありえないことが、気づかないために起こり、お客様の不満の原因になっていたのです。

日本コンサルタントグループが都内10百貨店の紳士・婦人・服飾雑貨・ベビー用品・寝装品などの百貨店の中でも自主売場の可能性が高い売場を選んで行った接客サービスの調査結果が繊研新聞6月2日号に、発表されました。
この調査結果では、百貨店間のサービスの格差が100点満点で平均45.2点から68.2点と非常に差があることを指摘しています。

その上で、売場でのプロ意識のない接客の例をいろいろ挙げています。各百貨店で、調査を行ったコンサルタントが実際に遭遇したものです。「これでいいの?百貨店の接客サービス」というタイトルにふさわしい事例ばかりです。例えば、「商品を見ていても、平気でお客の前を通る」「あいさつが全くない」「商品を手に取ったり合わせたりしているのにアプローチがない」「アプローチがないのは自由に見ていただくということなら、呼んで聞いた時には親切に応対するのではと思って見ていると、『色違いはないの』と尋ねる客にも『出ているだけです』と素っ気無い返事」等、問題のある接客例の数々が列挙されています。

顧客満足以前に、お客様の都合を優先したアプローチや接客の基本である「メイ・アイ・ヘルプ・ユー」の姿勢がかけていることが指摘されています。セルフ販売の店とは違い百貨店には、それなりの接客を期待する顧客が来店します。このような接客では、ますますお客様は百貨店から足が遠のいてしまうことでしょう。

このような状況を、どこまで販売員が気づいているでしょうか?お客様から見ると、はっきり見えることが、販売員には中々見えないのではないでしょうか?

■ お客様の立場にたって、「気づく」

ある販売員研修で、ストアコンパリゾンを行ったことがあります。実際に競合店にいき、小額の買物をして、その時、客の立場でいろいろ感じたことをメモしてもらうやり方で行いました。その結果、「買いたいのに、販売員が背を向けて包装に夢中になっていて、待つのにイライラした」「商品について尋ねても答えがあやふやで不信感を持った」「2種類の商品の違いを尋ねたが、答えがはっきりせず、迷った」など、いろいろな問題点が出てきました。その内容を全員でグループディスカッションしてもらったところ、驚くほど明快に、「これから私たちが接客でやるべきこと」がまとまりました。
ストアコンパリゾンによる販売員自身の「気づき」の成果と言えます。「販売員はお客の立場にたつことが大事」と言われても、本当にその立場になってみないと問題点に中々気づきません。ストアコンパリゾンの形を借りて、お客の立場になって、よその接客を受けてみて、自分自身の接客の問題点に気づくことができたのです。

 ある百貨店では、週1回担当者以外の社員が、売場を見て、POPの点検を行い、わかりづらい表現などを見直しています。その結果、販売員がお客様の目で売場を見ることができるようになり、商品について、今まで以上に勉強するようになったということです。

 お客の気持ちに「気づく」ためには、自らお客様の立場になったり、仲間にお客様の目で点検してもらったりすることが役立ちます。いずれも、第三者の客観的な視点で、現状を見直すことがポイントと言えます。

■ 問題意識を持って、「気づく」

ベテランになるほど、お客様の気持ちに気づくようになるのは、プロとしての問題意識を持って接客しているからでしょう。特に、お客様自身も気づいていないようなニーズはお客様にたずねても中々わかりません。接客しながら、ちょっとしたことも見逃さず「気づく」ことがポイントになります。

ある下着専門店では、フィッティングルームの鏡に映ったお客様の姿や表情から、お客様が言葉に出さないけれども感じているものをキャッチして接客しています。お客様から具体的な言葉になって出て来る要望は一部分で、お客様の感覚に気づくことが大事だと考えています。例えば、ブラジャーの試着で、左右のフィット感の違いをお客様が気にしているようなら、左右違うパットでの調整の仕方をさりげなく薦めたり、パットの取り外しのしやすい製品を紹介したりと、きめ細かな接客をしています。問題意識を持って顧客に接しているからこそ、自然にできる対応と言えます。

ある百貨店の販売員は、背が高くスタイルの良いお客に、「背が高くて、スタイルがいいですね」と話し掛けた時に、人によっては、背が高いことにコンプレックスを持っているお客もいて、不快に思う人もいることに気づきました。特殊な例かも知れませんが、人様々です。お客の立場や気持ちにたって見ると、意外なことをお客様は気にしていることがあるものです。

お客様に関心を持ち、「何を求めていらっしゃるのか」「今、どんな気持ちなのか」など、問題意識を持ち続けることがポイントと言えます。問題意識を持って接客していればこそ、ひとりひとりの顧客の気持ちに「気づく」ことができるのだと思います。

■一人一人の「気づき」を全員で共有

気づいたことをノートに記し、全員で共有することから新しい知恵が生まれます。

あるレストランチェーンでは、ノートに全員で「気づき情報」を記入しています。例えば、お客様がメニューを見て同じ材料が入っている料理を2種類注文した時がありました。厨房で気がついて「どちらにもOOがはいっていますが」と再度確認すると、お客様は「じゃあ、別のを頼みましょう」と注文を変えました。担当者は、このことを、「気づき情報」としてノートに書いておきました。ノートを見た店長は、似た材料を使った料理のオーダーが入った時は、お客から聞かれなくても、こちらから確認することにしました。その結果、実際に料理が運ばれてきてから、「しまった。似たようなものを2つ頼んでしまった」と、お客を後悔させずにすみ、顧客満足を高めることができました。小さなことですが、一人一人気がついたことを一冊のノートに書き込み、全員で見ることで、「気づき」の共有化ができたのです。

パソコンの電子掲示板機能などを使って多数の店舗間でこのような情報を共有して活用しているところもあります。これからは、IT技術を使って、各所で気づいた情報を蓄積し、共有して活用することがさらに進むことが予想されます。その原点は、ひとりひとりの販売員が、気づいた情報を見逃さないことから始まります。

ひとりひとりが、まず「気づく」こと、それと同時に、それを全員で共有する仕組みをつくって接客に活かすことがこれからの顧客を満足させる大切なポイントと言えます。

 
◇ F's は、レナウン・FAコミュニケーションセンターの広報誌です。
 セールスエッセイをまとめた本「ハートフルセールス」が発売されました。
 
 
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