「地方分権時代の街づくり」

中心市街地の再生とTMO戦略

(中心市街地活性化研究会研究成果論文集頒価\2000)

 
第8章 2 行きたくなる店が増えれば商店街に人が集まる            長原 紀子
1.1楽しさのない商店街に、人は集まらない

 人口の郊外化、モータリゼーションの進行、中心市街地の後背地の人口減少および高齢化等、社会構造的な変化が、中心市街地の商業を寂れさせ、新興勢力である郊外のショッピングセンターに人々は買物に行くようになった。客数減から売上げ不振が続く商店街の中には、後継者難などをきっかけに廃業する店が出てきた。歯抜け状態になると、ますます商店街に魅力がなくなり、人が来なくなる。ついには、マンションや事業所など非商業施設の中に商店が点在する名ばかりの商店街が増えてきた。このような例を、全国いたるところに見ることができる。

 いったんさびれた商店街に復活の目はあるのかは議論のわかれるところであろう。アーケードや歩道の整備などハード面に手を入れても大きな成果は得られなかった事例も多い。最近ではバリアフリーの視点で、道路の段差をなくしたり、個店の入り口を入りやすくしたりして商店街の再整備をするところも多い。しかし、ハード面をいかに整備したところで、商店そのものに魅力がなければお客は集まってこない。

 これからの商店街になにより必要なのは、どうしてもいきたくなるような、店づくり、店集めである。商店街として立ち直る以前に、街としての機能を取り戻すことが求められている。

今、人々が喜んで出かける新しいショッピングセンターには、物販だけでなく、飲食、シネマコンプレックス、ホテル、ゲームセンター、ヘルス&ビューティなどサービス施設が集積され、楽しい時間を過ごすための仕掛けがはりめぐらされている。

人は、買物というよりは、楽しい時間を過ごすため、息抜きをするため魅力的な街に出かける。寂れた商店街を尻目に、新しく戦略的につくられた大規模商業施設には人々が集まっている。
 
1.2 人間らしく生きるために必要な商店街

きらびやかな新しい商業施設だけで、人々は日常生活を充たすことはできない。
人々の生活の中では、年に数回出かけるアミューズメント型商業施設、季節の変わり目に買回り品を買うデパートや専門店の集まる中心商店街、週末に出かけて食料品や衣料品を買う大型店やショッピングセンター、毎日のちょっとしたものを買う近くの店や最寄商店街というように、買物先を使い分けている。中心商店街や最寄商店街が寂れることは、生活の楽しさが失われることである。

 神戸の少年事件は、学校前に子供がくつろげる文房具屋やパン屋すらない人工的な新興住宅街で起きた。住宅と大型ショッピングセンターしかない人工の街は、子供の精神にも影響を与えたのではないかという仮説がある。最近の凶悪な犯罪は大都市よりも、地方のさらに郊外でおきているケースが多い。こうした郊外には、家庭と学校・会社の隙間の時間を埋める商店街や盛り場がなく、人々が息を抜く場所がない。人工的過ぎない、人のぬくもりのある街は、人が人間らしく生きるために必要不可欠なものと言える。

 現在、高齢化社会に向けて、高齢者のための商店街復活論が盛んである。しかし、すべての人にとって、商店街活性化は必要なのではないか。これからは、SOHO化が進むことも予想される。長い通勤時間をかけて郊外から都心に通って働くというワークスタイルだけでなく、住むところが働く場所であるようなワークスタイルが増える。その時、買物も在宅ですますネットショッピングのみが主流になるとは考えにくい。むしろ、在宅ワークだからこそ、仕事の合間に近くの商店街に買物目的だけでなく、多様なニーズを持って出かける人々が増えることが予想される。
これからは、もっと多様な店やサービスが商店街に求められるはずである。
1.2目的がなくても行きたくなる商店街に

 商店街は、単にものを買う場所ではない。くつろぎ、息抜きの場所、遊びの場所でなくてはならない。
人は買物だけの場所には、買う目的がないとでかけない。特に買う目的がなくてもでかけたくなることが、人を集め、賑わいをつくる。今の商店街の中で遊べる場所はコンビニくらいしかない。

その点、大型店やデパートは、お客を放っておいてくれるだけぶらぶらしやすいし、ホテルのロビーなども万人に開放されている。今は、豊かさを味わえてお金も特に必要ない場所が探せばあちこちにたくさんある。そうした贅沢な環境に慣れ親しんだ消費者が商店街を見ると、あまりにも楽しさがないと感じるのは無理もないことである。
デパチカ(地下食品売場)や東急ハンズ、大型電気店など、いろいろな商品を発見できる楽しみのある店は相変わらず人気が高い。魚の顔を見ると、ストレス解消になると、百貨店の魚売場に遊びに行く中年男性や、東急ハンズにいって面白い商品を見ていると厭なことも忘れてしまうというOLなど、商業施設は、単にものを買うだけで利用されているのではないことは、いろいろなお客の本音から知ることができる。このように買物目的を持たずに店に行く人も、気に入ったものがあれば買物する。

商店街に客を呼ぶには、何か目的がなくても時間がつぶせたり、遊べたりするような場所が必要だ。有楽町の丸の内カフェ(インターネットができたり、お弁当やお茶を飲めたりするフリースペース、待ち合わせにも使える)のような場所が、規模は小さくてもあれば、商店街に人がいくのではないか。例えば、最近まで、私の住む近くの商店街の一筋奥に、昔からの富士山の画がある伝統的な風呂屋があった。内風呂にも厭きた時や菖蒲湯や柚子湯など特別な風呂の時には、風呂屋にいき、その後商店街で何か食べたり、本屋によったり、買物したりするという生活パターンを楽しめた。ある日突然、後継者がいないという理由で風呂屋が閉店することになり、その商店街にもめったに行かなくなってしまった。

場所場所によって、何がふさわしいかは一つには決められないが、買物だけでなく、楽しい時間を過ごすための仕掛けを商店街の中にも作り出して欲しい。商店街の楽しさはショッピングセンターでの刺激的な楽しさと違ってもいい。もっと肩の力を抜いた、気楽に立寄れる場所を、知恵を絞って作る必要があると思われる。

 
1.3 商店街に魅力のある店を増やすには
商店街活性化のために、まず取り組みたい個店のポイントとして以下の3つを挙げたい。

■独自性のある商品を一つでもつくる。
利用者にとって、生活必需品を買うとしたら、コンビニとスーパーに行けばすむ。安いものが欲しかったら、ディスカウント店やインターネットを利用すれば良い。今、わざわざ商店街に行かなくても人は快適に暮らすことができる。
商店街には、個性的な店や、他にはない店があることが必要なのではないか。独自性は、商品でも店長の人柄でもサービスでもいい。他にない特徴があれば、人は出かける。

大手のチェーン店では概して品揃えは最大多数のための最大公約数的な品揃えでないとやっていけない。そうした大手チェーンでは得られない商品やサービスを手に入れることができれば、街の近くの店に買物に行くであろう。
街自体は流行っていなくても、街の中に繁盛している店がある。立地がよくなくても、店長にこだわりがあり、独自性のある商品をお客の顔を思い浮かべながら仕入れているような店はお客を惹きつけている。

食品など店内加工をしている業種なら、独自性ある商品はちょっとした工夫でいくらでもつくることができる。魚屋なら、特製の干物や刺身、煮魚・焼魚、鍋セットなどいろいろなオリジナル商品、八百屋なら、漬物、カットフルーツなど、肉屋なら、特製コロッケなど、どこにもないおいしい商品を作ることができる。

独り善がりの独自性ではなく、市場動向・顧客の嗜好を十分に把握した上での独自性を出せば、必ずお客は集まってくる。

飲食、ファション、リビングどんな分野であっても、お客の嗜好にあった、独自性のある商品を揃えることがポイントと言える。国内外からインターネットなどを使ってユニークな商品を集めることも可能になるこれからは、小さな店でも独自性あるMDは、その気になれば実現できる。

■独自商品のブランド化
個店ごとの独自性のある商品をネットワーク化して、商店街ブランドにする試みも、個店の独自性強化の動機づけになる。情報化の時代にお客に印象づけるためにはブランド化は有効である。多摩プラ・美しが丘など地区名を冠したブランドをつくり地域イメージを確立しようとしている例もある。商店街の個店の独自性ある商品を、手続きを経て、商店街ブランドに認証し、お客にアピールする。一店逸品運動などイベント化するのも良い。このような動きを起こして、個店レベルの独自性を商店街全体の独自性に転化することも大切である。

■ワンツーワン対応
オートバイを顧客の希望に応じてカスタムメイドして、評判になったバイク屋さんがある。衣料品店でも、お直しの上手な店はお客が定着している。大型店では、通りいっぺんのお直ししかしないが、シルエットを崩さずに大掛かりなお直しもやってくれる店では、お客はサイズを心配せずに買うことができる。
熱心にお客一人一人の好みに合わせた、お客の購買代理人の機能を果たしている店主のいる店は、商店街の中でも固定客をつかみ繁盛していることが多い。

個店が人を集めるためには、お客の我儘を聞くワンツーワン対応も一つの行き方である。

 
1.4 商店街を、くつろぎのテーマパークに

独自性のある店が集まっているという意味では、巣鴨の商店街はその典型である。おばあちゃんの原宿と呼ばれ、高齢者向けの安い、衣料品や雑貨などが揃い、とげぬき地蔵というお参りの集客装置があり、飲食なども充実している。高齢者にターゲットを絞りテーマパーク化しているところがポイントである。

アンティークショップが自然に集まった西荻、輸入雑貨衣料のアメ横なども一つのテーマで商店が集まったテーマパークと言える。中華街、アジア街なども国をテーマにしたテーマパークと言える。どんなテーマが、その商店街にふさわしいか、また実現可能かをよく検討した上で、特色ある楽しい街を作ったら必ず人は集まる。

その中の一つ一つの店が、店長がこだわりを持った、独自性のある店であれば、そこにいく楽しみも増し、繰り返し訪ずれる客とともに商店街が賑わうであろう。

商店街にも、明確なコンセプトとターゲットの設定が必要である。設定した、あるべき姿に向けて一歩一歩進んでいくことが、独自の魅力形成に繋がっていくものと思われる。
 

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