社団法人日本マーケティング協会発行

マーケティングホライズン 2007年8月号 百貨店大統合時代

 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子

 大手百貨店大丸と松坂屋が今年9月にJ.フロントリテイリングを発足させ経営統合することが決まった。百貨店同士の経営統合としては、すでに2003年に西武百貨店とそごうのミレニアムグループがあり、2006年にセブン&アイグループの傘下に入っている。ミレニアムグループの場合は経営破たんした同士の合併だったが、今回の大丸・松坂屋にはそうした事情も見えず、双方とも日本を代表する老舗百貨店であるため、「今、なぜ」と世間の注目が集まった。大丸・松坂屋統合が明らかになったのに続き東急百貨店と伊勢丹の業務提携が3月に発表された。また、親会社同士の合併から阪急百貨店と阪神百貨店が10月に経営統合することが決まっている。こうした相次ぐ百貨店の合従連衡の背景には百貨店業界を取り巻く環境の厳しさがある。

 日本百貨店協会によると、百貨店売上高は1998年以降8年連続で減少している。この間にショッピングセンターの小売市場におけるシェアは拡大を続け、日本ショッピングセンターによれば2005年には20.6%を占めている。対する百貨店のシェアは6.0%とその差は拡がっている。特に、郊外や地方都市では郊外型ショッピングセンターや専門量販店に客足が流れ、苦戦している百貨店が多い。

 百貨店が得意としてきたファッション分野においても、ヤングやOL向けファッションは駅ビルやファッションビルに、安価なファミリー向け日常ファッションは量販店や郊外型ショッピングセンターなどに侵食されている。さらに、かつては独壇場であった高級ブランドも、海外ラグジュアリーブランドが競って路面に旗艦店を出し、百貨店に行かなければ買えない時代ではなくなった。

 中元・歳暮をはじめとするギフト市場にはネット販売の波が押し寄せている。百貨店自身もネット販売を強化しているものの、ギフトはもともと百貨店にとって利幅はうすく、ギフトのついでに関連購買を期待するものだったが、いまやネット注文で済ませてしまうので来店促進効果も薄れている。

 こうしてかつての強みが他業態に奪われるなか、百貨店が経営統合によって狙うのは、第一に物流・情報システムなどの合理化によるコスト削減、第二に統合によるバイイングパワーを背景にした仕入先との取引条件の改善による収益向上である。一つ一つの店舗は、屋号は変えずに営業するので、消費者にとってすぐ目に見える変化はない。

生き残りキーワードは3S

業態間競合の激化に加え、今後の少子高齢社会を睨み、生き残りをかける百貨店の経営統合は今後も続くと考えられる。ただし、量販店と異なり百貨店はチェーン化が難しい。地域で1番店となることが成功戦略の王道である。その意味で店舗網拡大によるメリットには疑問符もある。百貨店の強さは個店一つ一つの強さにあるからだ。今後は、ファッションに強いなど専門特化した部分に優位性のある「スペシャリティ」型、富裕層や法人需要を囲い込んだ「ステータス」型、電鉄と連携した立地の優位性を生かし地域密着に注力した「ステーション」型の“3S”が百貨店生き残りのキーワードといえそうだ。米国でも、ニーマンマーカスやサックス、ノードストロームなどの高級百貨店は健在で、大都市の旗艦店に加えてショッピングセンターの核テナントフォーマットや中心市街地に溶け込むメインストリートフォーマットなど多形態を展開している。 日本でも大丸ピーコックやクイーンズ伊勢丹など百貨店が生み出した高級スーパーなどの成功例がすでにある。旗艦店の成功モデルだけでなく、新分野に百貨店が持つ豊富な情報と人材を生かす道にもいくつかの可能性があるのではないかと思われる。

 
 
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