社団法人日本マーケティング協会発行

マーケティングホライズン
2009年1月号 DISTRIBUTION’08 キーワードは日常性、安さ、ネット

 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子

 米国発金融危機に始まる株安と先行き不安から、08年、消費者は財布の紐をさらに引き締め始めた。変化に機敏な小売業は、プライベートブランド開発や、円高還元、ディスカウントストア参入など、戦略的な低価格シフトに転換。価値ある商品を低価格で提供する製造小売業のユニクロやニトリが快走した。H&Mオープンによりファストファッションに注目が集まり、アウトレットセンターの開設相次ぐなど、「安さ」が全面に出た1年だった。その中で、ネットスーパーをはじめ、ネット販売が着実に浸透した。

ファストファッション、H&M登場

 9月、スウェーデンのへネス・アンド・モーリッツ(H&M)の日本1号店が東京・銀座にオープン、行列が絶えず話題を呼ぶ。11月には、2号店が原宿にオープンし、速いトレンドファッションを安く提供するファストファッション(ファストフード的なファッション)という言葉を定着させ、同じカテゴリーを扱う、ザラ、トップショップなどの認知度も高まった。  

タスポ効果で快走、コンビニ

 店舗過剰で、既存店前年割れが続いていたコンビニエンスストアはタスポ(成人識別たばこ自販機用ICカード、7月から全国導入)の利用を面倒に感じる購入者を取り込み、売上好調。不況ムードから、中食志向が高まり、弁当・総菜などの売り上げも貢献した。タスポ効果は09年夏に一巡するまで、コンビニには恵みの雨となる。 

ユニクロ、一人勝ち

 夏にはブラトップ、冬にはヒートテックなど独自の商品を手ごろな価格で売り出し、好調を続けたのは、ユニクロ。ヒートテックは東レと提携し、素材から最終製品まで一貫した商品開発を行ったもの。その後も、洗濯機で洗える女性用セーターを売り出すなど、次々にバリュー商品を開発し、ベーシック日用衣料で、独走。 

ニトリ、円高還元で人気

家具・インテリア製造小売りチェーンのニトリは、円高を追い風に6月、8月、11月と値下げ断行。消費者の節約志向の支持を受け、家具や寝装品が好調に推移し、9〜11月も既存店売上増を続けた。開発輸入品が7割を占め、海外に自社工場を持つメリットが強みを発揮し、低価格を実現。株安の中、内需関連有望銘柄として株価も高騰。ファーストリテイリング(ユニクロ)、ABCマートと並び小売業の勝ち組として注目された。 

ショッピングセンターは、踊り場

 10月、国内最大規模のショッピングセンター、イオンレイクタウンがオープンしたのをはじめ、07年の改正まちづくり三法の駆け込み開業の影響もあり、今年もショッピングセンターの開設や増床が続いた。ただし、以前と比べ小売販売額の伸びは小さく、テナントから逆選別される時代に入り、空き店舗問題が一部では深刻に。歯抜けのままオープンする施設も増え、ここ数年、好調だったショッピングセンターは、厳しい岐路に立たされた。  

再編続く百貨店

 売上低下傾向が止まらない百貨店では、株安による逆資産効果も影響し、頼みの富裕層も消費を抑え、厳しさの増した1年だった。その中で、4月に三越伊勢丹ホールディングスが誕生、10月には高島屋とエイチツーオーリテイリング(阪急・阪神百貨店)が2011年までに経営統合することを発表した。店舗閉鎖や改装計画の凍結など投資抑制の動きが拡がる中、再編は続く。 

PB(プライベートブランド)躍進

 年前半、原料高からNB(ナショナルブランド)の値上げが次々に発表され、物価上昇懸念が高まった。その中で、流通各社はPB開発に力を入れ、消費者の低価格志向をとらえた。セブンイレブンのセブンプレミアム、イオンのトップバリュなどが好調で消費者の認知も高まった。一流メーカーがPBに参画しはじめたことも08年のポイント。小売パワーの増すなか、NBを売るために、PBにも協力するメーカーの微妙な立場も浮き彫りになった。 

KYでいこう

 12月、ウォルマート傘下の西友が、「他社チラシ価格照合」制度を始めた。同一都道府県内の他店のチラシ掲載商品で、西友より安い同一商品があれば、その価格で販売するというもの。キャッチフレーズはK(カカク)Y(ヤスク)でいこう。親会社ウォルマートのEDLP(エブリデイロープライス)戦略は有名だが、日本でも、ウォルマート流が本格化。 

ネットスーパー急拡大

 ネットスーパーには西友が00年、イトーヨーカードーが01年に既に参入しているが、9月にダイエーが新たに参入。イオン、ユニーも地域を拡大した。インターネットの普及と共働き世帯などのニーズの拡大に加え、店頭での「ついで買い」を省こうとする消費者の節約志向も背景に利用者が増加。ヤフーショッピングなどでも、日用品の注文が増え、ネット購入が生活インフラになりつつあることも参画企業の背中を押している。しかし、ネットスーパーは人員確保やシステム投資などのコストも高く、撤退も多い。店頭販売をネット販売でどこまでカバーできるか、今後が注目される。 

携帯で買えるビジネススーツ登場

 紳士服業界では、スーツのネット販売の動きが盛ん。青山商事では、9月にホームページと実店舗を連動させ、ネットで予約して、店舗で試着できるサービスや、ネット決済で自宅配送の場合、購入者の住所をもとに「アフターフォロー店舗」を自動的に割り当て、店舗スタッフによる迅速・適切な対応を可能にするサービスを開始した。また、10月、はるやま商事は、若者向け業態のパーフェクトスーツファクトリーで携帯電話からのスーツ注文も可能にした。忙しいビジネスマンは、深夜にスーツを注文できて大助かり。 

アウトレットモール2強の対決

 全国に33か所あるアウトレットモールのうち15か所を占める三井不動産とチェルシーの2強が10月、仙台で相次いでアウトレットモールをオープンさせ、話題になった。高級ブランドを安く買えるアウトレットモールは、消費者の節約志向にマッチして人気も高いが、既に施設過剰な地域もあると見られている。しかし、地方の地価下落が追い風となり、新設は続いた。 

ラグジュアリーブランドも値下げ

 富裕層の消費が落ち込み、キャリアウーマンのご褒美消費なども減少傾向で、高額品市場は低迷。12月、「ルイヴィトン」が計画していた銀座数寄屋橋への大規模店舗の出店中止が話題を呼んだ。円高還元もあり、秋以降の価格改定でラグジュアリーブランドの値下げも始まったが、買い控えムードの反転には、しばらく時間がかかりそうな様相。 

100円コンビニ拡大

 ローソンは、生鮮品や加工食品を100円均一で販売する低価格百円ショップを拡大。9月に子会社化した99プラスも09年には統合する見通し。必需品の値上がりなどで生活防衛意識を高める消費者の支持を受け、通常のコンビニより、100円コンビニの売上高の伸びは高く、今後も拡大が期待される。 

スーパーの農業参入

 8月、セブン&アイ・ホールディングスが千葉県富里市に農業法人「セブンファーム」を設立。自ら野菜を作って、近隣店舗に供給する。スーパーが契約農家と提携する形態は多いが、農業法人としての参入は異例。売れ残り食品を堆肥化し、その堆肥を農場で使うリサイクルの推進を行う。08年は、食品の安全性を疑う出来事が多発した。また、店頭からバターがなくなるなど、供給不安もあった。その中で、農業参入で安全で安心な供給システムづくりを目指す試みが注目される。

 

 
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