社団法人日本マーケティング協会発行

マーケティングホライズン
2009年7月号 PULSE 節約時代の販売方法

 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子

消費者の買物意欲には、なかなか回復の兆しが見えない。今夏も、企業業績不振によるボーナス支給額の減少や、過剰雇用の見直しによる更なるリストラが行われるとの予想もあり、消費者心理は、暑い夏にも冷えたままかもしれない、という懸念がある。そんな中で、流通各社が力をいれているのが、下取りセールである。最初に仕掛けたのは、イトーヨーカドーで、昨年12月の歳末企画から今年の5月まで、既に第7弾まで続く人気企画となっている。その成果を見て、百貨店、家電店、家具専門店、大手アパレルなどにも、下取りセールが広がり、日経MJ2009年上期ヒット商品番付で、西の横綱に挙げられるほどに存在感を増している。 

■来店のきっかけとなる「下取り」

下取りセールは、各社多少のやり方の違いはあるが、不用品を買物券と交換できるという仕組みである。引き取った商品のリサイクルなどにコストはかかるものの、下取りというだけで消費者の反応が高いため、売上にも確実に貢献している。ふだん、来店したことのない客まで店に呼び込む効果がある。実際、筆者も、バッグと靴の下取りがあると知り、普段あまり行かない百貨店にわざわざ出かけた。貰った商品券は、好みに合うモノがなかったため結局は使わなかったが、不要な商品を処分した満足感は確かにあった。ついでに、店内のカフェでお茶を飲み、食品を購入して帰ったので、結局、その百貨店でいくらかの買物をした。百貨店やスーパーなどの場合、来店すれば、そこでお客はなんらかの消費を行う。まずは来店して貰うことが活性化の一歩なのだ。そこで、来店のきっかけづくりとして、各種値下げ、セールの前倒し等、様々な施策が打たれている。しかし、なかなか消費者は動かない。決定打がない中で、下取りセールの健闘が目立つことになる。 

モノを買う前にモノを処分したい消費者

下取りセールに反響があるのは、それだけ処分したいができないモノを多くの消費者が持っているためである。商品券を貰って商品を少しでも安く買うこと以上に、不用品を処分したいというニーズが強いことがヒットの理由といえる。最近では「もったいない」というキーワードが消費者に浸透するなど、エコロジー意識が定着し、安易にモノを捨てられなくなった。ものによっては、廃棄にコストもかかる。家庭内在庫が、消費者に新しいモノを買わせない。だから、モノを買ってもらうためには家庭内在庫を捨てる機会をつくるという作戦が図に当たったといえる。

 モノが売れない理由について、「消費が飽和状況にある」という解釈が、新聞・ビジネス誌等でコメントされている。食品などの生活必需品では、確かに消費の量的な限界はあるかもしれない。しかし、趣味財やファッション財では、「たくさん持っている人がさらに買う」「持たない人はそもそもあまり買わない」という2極化の傾向がある。既にたくさん持っていて、さらに買いたい人にとって、狭い生活空間の中でストックスペースが限られることが、新しいモノを買いにくい理由になっていることは多い。家庭内からモノを吐き出させることは、空間的にも心理的にも、新しいモノを受け入れる余地を作ることになる。その上で、どうしても買いたいと消費者が思うような魅力的なモノを見せていくことが消費再浮上の鍵になるといえよう。

 
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