書店経営ゼミナール会報 
 
267号(99年7月発行)
 

ストアロイヤルティこそ勝ち残りの鍵

 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子

お客は本を書店、コンビニエンスストア、キオスク、インターネット、出版社への直接注文など、いろいろなルートから購入することができます。雑誌しか買わないお客は、コンビニエンスストアだけでも事足ります。本はどこで買っても内容は同じです。また、日本国内では基本的に価格も変わりません。そのため、ある特定の本を買おうと思った時、お客が本を買う場所はどこでも良く、たまたまその本を見つけた書店で買っているのが現状ではないかと思います。

 本の購入に際して、お客が書店に「同じ本でもこの店で買いたい」というストアロイヤルティを持っているかどうかは疑問です。書店の方も規模の大小はあってもどこも同じようなサービスで、どこで買おうとお客にとって大した違いがあるわけではありません。より便利な場所にどれだけ大きな売場面積を確保するかが今までの書店の主要なマーケティング戦略でした。しかし、これから書店は量的競争から質的競争の時代に入ります。その時、生き残りの鍵となるのはストアロイヤルティです。ストアロイヤルティの高い固定客をどれだけ作れるかがこれからの書店の大きな課題と言えます。

■インターネットが促す書店の変化

 電子商取引(エレクトロニックコマース:以下略称EC)の中で、書籍販売は早くから成長株となっています。米国で生まれたインターネット書店のアマゾンドットコムは、既に日本語のサイトを開設しています。日販では秋から受注した書籍を注文客が書店に取りに行く方式のインターネット販売を始めます。この販売方式は既存の書店の店舗網を生かすインターネット販売への取り組みとして注目されます。ソフトバンク、ヤフー、東販、セブンイレブンの4社が書籍のインターネット通販で提携し、今年の11月からイー・ショッピングブックスを立ち上げることを発表しました。イー・ショッピングブックスは、コンビニエンスストア・セブンイレブンと組むことで、配送負担を押さえることを狙っており、既存の書店にとって新たな脅威になることが予想されます。 

 ECの中で書籍販売が比較的早く成長した背景には、書籍が電子商取引に向いている商品であることが挙げられます。書籍という商品は書名、著者名、出版社名さえわかれば、商品内容は一定であるため、顧客はインターネット上でも迷わず注文できます。また、多くの出版物の中から目的の本を探すには、インターネットの検索機能は大変便利です。

 しかし、書籍のインターネット販売が成長したのは、単に店頭までわざわざ足を運ばなくても本が買えるという「便利さ」だけではありません。むしろ今までの店頭販売以上に顧客サービスが充実していることが利用者に高く評価されています。アマゾンドットコムがいまだに黒字化していないのにも関わらず、その将来性を高く買われているのも、インターネット販売によって作り上げた顧客ネットワークとデータベースを活用すれば、今後ますます、一人一人の顧客に新たな商品を販売できる可能性を秘めているからです。アマゾンドットコムは作り上げた顧客ネットワークを生かして、さらにCD、ペット用品、ドラッグストアを買収し、ネット販売の分野を広げています。

 インターネット販売では、注文したお客の記録をデジタルに蓄積することができます。「だれがいつどんな本を買ったか」が記録に残されるのです。それらの購買記録を元に、「この顧客はどんなジャンルの本の情報を求めているか」「次にどんな本を薦めたら購入の可能性が高いか」が分析できるようになりました。そこで、一人一人の本の買い方に合わせて、インターネット書店ではさまざまな情報やロイヤルティに応じた報酬を顧客に提供できます。例えば、特定のロイヤルカスタマーだけに優待価格で商品を販売することもできます。絶版になった本や希少本を買いたいお客と、そうした本を売りたいお客をネット上で仲介するサービスもあります。このように、一人一人の個客に合わせたきめ細かいサービスができるインターネット書店は、今後インターネット人口が増える中で、店舗販売に大きな影響力を持つことは間違いありません。米国の大手書店チェーン、「バーンズ&ノーブル」や「ボーダーズ」もインターネット販売に乗り出しています。これらの書店チェーンでは、店舗を持つ強みに加えて、インターネット販売を持つことで店舗販売とインターネット販売の相乗効果を狙っています。

■これからはインターネット販売と店頭販売の共存時代

 お客は十分な時間があって、書店の店頭でいろいろな本をゆっくり見比べて買いたい時もあれば、特定の一冊の本をとにかくなるべく早く手に入れたい時もあります。こうしたお客の一人10色の買物動機を考えると、インターネットを使う環境がほとんどの人々に行き渡ったとしても、人々は一般の書店とインターネット書店を使い分けていくことが予測されます。

 これからは、店頭小売業もインターネット販売をうまく活用する時代になるでしょう。「インターネットか店舗か」ではなく、「インターネットも店舗も」という時代になります。このことは、書籍だけでなく、アパレルや食品、薬品、パソコンなど幅ひろい分野で小売業に起こっている現象です。

■インターネット時代にわざわざ出かけたい本屋さんとは

 インターネット時代に人々を書店に呼びよせるには、今以上にそれぞれの書店が、「その店ならでは」の独自の品揃え・サービスをしていく必要があると思われます。何でも揃っているというだけでは、売場面積に限界がある店頭小売業はインターネット書店にかなわないからです。


■その店ならではの独自の品揃え

 「あの店にいけば、私の好きなミステリーの本が必ずある」「あの店の特集コーナーの切り口はいつも斬新で見逃せない」「贈り物の本なら綺麗なビジュアル本の品揃えが豊富でラッピングサービスが充実しているあそこが一番」など、その店ならではの特徴がある店は固定客を集めています。

 そのためには、来店客の特性・買い方・売れ筋を分析して、独自性のある品揃えに集中する必要があります。例えば、何か一つだけ地域一番のカテゴリーを作ることでもいいでしょう。文庫本一番店、ガーデニング一番店など、後背地や来店客の特性をよく分析して、この分野の本ならこの店が一番という評判を作り上げることが、固定客を増やすことに繋がります。

 顧客層を絞って品揃えを特化する方法もあります。「若者」「クエーター」「ビジネスマン」「女性」などにターゲットを絞った書店は固定客を集めています。

 これからは、このようなコンセプトやターゲットを絞った本屋が増えていくものと思われます。


■見やすくわかりやすい分類

同じ本を扱っていても、書店によって分類は千差万別です。よく利用する店の分類が刷り込みされた顧客は、他の店に行くと本が探しにくいので、慣れ親しんだ行きつけの店に足が向きます。お客にとって、見やすくわかりやすい分類ができている店は、本に詳しい店員がいて、何を聞いても素早く目的の本を出してくれることが多いように思います。
 しかし、中には首をかしげるような分類をしている書店があります。例えば、作家には性別不詳の名前があります。「薫」が女性作家だったり、「蘭」が男性作家だったり。そこで時々、男性作家のコーナーにまぎらわしい名前の女性作家の本が並んでいたりする店があります。このような基本的な間違いがあると、お客は店の専門知識を疑います。また、そのために本があるのに探し出せないことにもなります。最近は店内に検索サービスコーナーを設けたり柱にわかりやすい番号をふったり色分けしたりして本を探しやすく工夫する書店が増えて来ました。海外ではレイアウトを書いたチラシを配布している店もあります。

 このような、お客が見やすく買いやすい書籍分類やレイアウト・陳列の工夫は固定客づくりの第一歩と言えると思います。


■良いサービス

 来店したお客を固定客にするポイントは何といってもサービスです。

 筆者は、雑誌「商業界」の読者投稿文の選考を時々手伝っています。「サービス」「販売員」「施設」といったテーマで読者が実際に体験を綴る投稿文の中には、書店についての投稿文も数多くあります。

 数多くの事例から見ると、書店をよく利用するようになるきっかけは、「ちょっとした店員さんの心くばり」だったり、「親切」だったりすることが多いのに気づきます。「新しい本をめくっているうちに紙で指を切ってしまって困っていた時、店員がバンドエイドをさっと貼ってくれたのに感激、それ以来その店のファンになった」「妻が花粉症で苦しんでいるという店での会話を覚えていて、ある時花粉症についての良い本を薦めてくれたので、ますますその店に行くようになった」など、「親切にしてくれた」「何気なく言ったことを覚えていてくれた」といったことをきっかけに、その店のファンになる人がいかに多いかに驚かされます。

 このようなお客に好印象を与える接客が、新規客がリピーターに変わる瞬間をつくりだすと言えます。
 良く利用するお客の名前を覚え、名前で接客することなども、「私のことを覚えていてくれた」とお客の心に残ります。しかし、お客が多い店では名前を覚えるのも大変です。購入記録から買い上げベスト10のお客をリストアップした場合、上位のお客の顔と名前が一致しない店も珍しくありません。苦情の多いお客は印象に残りますが、よく購入する物言わぬお客は気憶に残りにくいからです。最近では、顧客情報システムやフリークエントショッパープログラムでお客様別データが容易にわかるようになりました。買上上位のロイヤルカスタマーだけでも店員が分担して名前を覚えることから始めても良いでしょう。

 クレジットカードのお客なら、カードでお名前がわかります。カード処理の後に「OO様ありがとうございました」と名前で挨拶されればお客は嬉しいものです。インターネットで注文すると、確認のために、即時に「OO様ご注文ありがとうございました。担当のOO」といったようにメールが入って来ます。自動的に機械がやっているものですが、きちんと名前を呼び掛けて挨拶してきたという印象は残ります。このような時代に生身の人間が相手をしている店頭では、より一層血の通ったサービスが求められると言えるでしょう。


■ 楽しさをつくりだす
基本的なサービスに加えて、店にいく楽しみがあれば、お客は書店に出かけるでしょう。

 最近は座り読みのできる本屋が増えてきました。本の試し読みがゆっくりできる本屋はお客にとって魅力的です。アメリカの本屋の座り読みコーナーは大変ゆったりしています。(写真)また、書棚の脇にも所々に椅子が置かれている本屋があります。これなどは、足腰の弱い高齢者などには嬉しい配慮だとい言えます。カフェなども店内にあれば、一休みしながら、本探しを楽しむことができます。

 「恋に落ちて」という映画で、ロバートデニーロとメリルストリープの出会うのは本屋でした。この時に使われたのは「リツォーリ」という建築や美術関係の本が充実していて内装も凝ったデザインの知る人ぞ知るニューヨークの雰囲気のある書店です。書店の内装はどこに行っても同じような店が多いですが、これからは、その店らしい個性のあるインテリアも固定客を引きつける重要なポイントだと思われます。

 本好きのためのイベントも重要です。読書会や朗読会、サイン会、鑑定会、リサイクル会、展覧会などいろいろな催しを行うことで固定客を飽きさせず維持することができます。
 ブックカバーや紙バッグなども、もっと楽しいものや季節毎の変化などがあったら、わざわざその店にいくきっかけづくりになると思われます。

 ギフトラッピングなども充実していると便利です。最近では、本にチョコレートを添えて贈りたいというお客のニーズに合わせてチョコレートを置いている書店もあります。

 インターネット時代に、お客に書店までわざわざ来てもらうためには、内装や付帯施設、イベントなどいろいろな側面からの楽しさの演出が必要になってくると思われます。

■さらに、顧客との関係を深めるには

図 は、見込み客を新規顧客へ、新規顧客を固定客へ変えていくステップを示したものです。お客と店との関係は一朝1夕にできるものではありません。お客と店との関係は長いお付き合いの中で深化していきます。

 一度リピーターになった継続客を、繰り返し利用するお得意客に、さらにその店を熱烈に支持するサポーター客に、まわりの友人知人にまで評判を広めてくれるごひいき客へと関係を深めることがポイントです。お客と店との関係が最高に深まった時、そのお客はあなたの店のパートナーと言えます。お店で買物するだけでなく、どんな商品やサービスを付け加えたらより良い店になるかアドバイスしてくれたりして、あなたの店と一心同体のような関係になります。

 そのためには、ロイヤルティの高い顧客を大切にすことがポイントです。今までは、「お客様を公平に扱うことが大切だ。区別してはいけない」という考え方が一般的でした。しかし、小売業の情報化が進むにつれて、ロイヤルティの高い顧客が店の利益を作り出すということがデータではっきりわかってきました。フリークエントショッパープログラムを採用しているスーパーマーケットやハウスカードにより顧客情報を分析している百貨店などでは、約20%から30%の顧客で、売上の80%以上が作られているという事実が明確になってきています。そこで、貢献度の高いロイヤルカスタマーにフォーカスして品揃え・サービスを集中させていこうというポリシーを徹底する小売業も増えています。

 特定のお客の優遇は、一般客の不満を呼ばないようにバランス感覚のあるやり方が必要ですが、固定客のロイヤルティをさらに深めるために必要なことです。相当な貢献を店にしているのに大事にしてもらえないお客がいたとしたら、そのお客は他にもっとサービスの良い店があれば移って行くに違いありません。

 例えば、米国のフリークエントショッパープログラムの活用で有名なドロシーレーンマーケットでは30%の上得意顧客にだけ、毎月ニューズレターを出しています。スーパーマーケットなので、メニューや健康など食品関係の情報を盛り込み、お客の購買履歴から推測して、一人一人のお客に喜ばれそうなクーポンなどを同封します。このように、買物すればするほど、優遇してくれるので、この店のお客のロイヤルティはますます高くなっています。不特定多数の顧客に向けたチラシなどの広告を止め、利益を大きく向上させています。

■ストアロイヤルティこそ勝ち残りの鍵

 限られた時間の中で、インターネットやテレビゲームなど本の市場を奪う新たな時間消費型商品が増えつづけています。本という商品そのものの概念を変える電子出版も始まっています。欲しい本を専用端末にとりこんで読む電子出版は、今までのような印刷製本のプロセスを飛ばして、内容を読者に届けるものです。雑誌でもインターネットマガジンが花盛りです。インターネットマガジンのサイト「まぐまぐ」を覗くとその数の多さに驚かされます。場所をとる辞書類などのCDROM化も進んでいます。こうしたデジタル書籍の利点は単に省スペースというだけでなく取り込んだテキストや図版の再利用がしやすいという大きな利点があります。そのため本の電子化はますます進むことが予想されます。コンビニエンスストアやインターネット書店による販路の奪い合いだけでなく、このような電子出版の流れも書店にとって大きな脅威です。

 その中で生き残ることができるのは、「この本屋で本を買いたい」という固定客をしっかり掴んだ書店だけになるでしょう。

 そのためには、現在の顧客との関係をより一層深め、顧客との会話の中からより快適で選びやすく買いやすい売場改善を行い、インターネット書店やコンビニエンスストアにはないサービスや満足感を顧客に提供していくことが大切です。

 そのためには、店のロイヤルユーザーを見極め、ロイヤルユーザ−に特化した品揃え・サービスをすることが不可欠です。すべてのお客を満足させることはできないからです。
21世紀は書店が個性を競う時代と言えます。

 
 
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