連載 「明日のヒット」につながる気づきノート21

○商品への「愛情表現」が店の魅力生み出す

商業界 
2003年3月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
書店では、どこでも同じような本を同じ価格で売っています。同業他店との差別化といっても、営業時間、店舗面積、売れ筋商品の確保以外にはなかなか違いが出しにくいのが書店の現状です。そうしたなか、他店と違う独自の展開や工夫で、顧客を惹きつけている書店があります。自ら読んで感動した本を顧客に推奨して熱心に売る特徴のある本屋さんが注目されます。

■盛岡の書店が生んだロングセラー

かまくら春秋社という小さな出版社が出した「天国の本屋」という本が売れています。
コンビニに勤める若者を主人公にしたファンタジックなストーリーで、雰囲気のある挿絵と文章が一体となって印象を残す恋愛小説です。今や、全国の書店でよく見かけるこの本ですが、出版を企画した田中愛子編集長の話では、出してから1年4ヶ月間は全く売れなかったそうです。元々同名の舞台とのタイアップ出版でしたが、公演中も思ったほど売れず、その後は全く動かなかったので、断裁の予定でした。

ところが、盛岡市の「さわや書店」の店長が1年以上在庫になっていた本を読んで感動し、まとめて注文し、目立つ場所に「贈り物にどうぞ」と並べたところ若い人を中心に売れ出しました。そのことが口コミで大手出版社の営業マンや書店関係者に伝わり、あれよあれよという間に注文が増え出したそうです。その後、新聞やテレビでもとりあげられ全国の本屋さんに波及しました。

この本に感動して一生懸命売った盛岡の本屋さんがいなかったら、本は断裁され、既に本屋さんの店頭からは消えてしまっていたことでしょう。本を見分けて顧客に推奨した本屋さんが、本の命を救ったともいえます。

■手書きのオビで、自らの「感動」表現

東京の書店明正堂の上野アトレ店や上野丸井店では、手書きのオビをつけた文庫本が目につきます。オビは、文庫本担当の社員が手書きで書いています。手づくりのPOPや書評のコピーを掲示する本屋さんは増えていますが、手書きのオビをつけた本が並ぶ書店は珍しいと思います。オビをPOP代わりに使う新たなインストアプロモーション手法ともいえます。

オビを書くのは、担当者が読んで惚れ込んだ本だけで、年に4〜5冊くらいだそうです。書評などは全く参考にしません。あくまで、自分自身の嗅覚で、読んで惚れ込んだ本を顧客に薦めています。オビはその都度、ひらめきで書いているので、同じ本でもオビのメッセージはどんどん変わります。同じ本を大量陳列した平台のオビに書かれているメッセージを読んでいくうちに、その本について色々な情報が伝わり、ますます買いたくなって来るから不思議です。

惚れこんだ本は、売れなかったらオビを変え、場所を変えて売り、決して諦めないことが大事と、後輩にも指導しているそうです。そのため、同じ本をいろいろな場所で違う本と組み合わせて並べています。惚れ込んだ本を長く平積みして、ロングセラーにしたことも何回もあり、著者が評判を聞いてわざわざ店にたずねて来ることもあるそうです。文庫本コーナーだけでなく、コミックコーナーでも、担当者が独自の視点で選んだ本をお客にわかりやすく楽しく紹介するため、並べ方やPOPなどに色々な創意工夫をこらしています。また、上野アトレ店では自社出版物も並べた江戸下町コーナーも展開しています。このように、様々な工夫で読書の面白さを伝えている同書店はいつも顧客で賑わっています。

よく売るためには、売る商品を好きになることが大切です。売る人自身が良くないと思っている商品や内容を良く知らない商品は、売ろうと思ってもなかなか売れません。二つの書店は、商品が好きだからこそ生まれる商品への愛情溢れた売り方が店の魅力を作り出すことに気づかせてくれます。

商品そのものの差別化が難しい商売でも、どの商品をクローズアップし、どのように組み合わせて、どのようなメッセージを付加して顧客に推奨するかで、店のイメージは大きく変わります。商品の'目利き'であることが商いにより強く求められている時代といえるのではないでしょうか。

 
 
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