連載 「明日のヒット」につながる気づきノート21

○話題の酒蔵を訪ねて分かった新規需要開拓の隠し味

(抄録)

商業界 
2001年5月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
先日、東京両国の西彦商店の主催で、福生市にある「多満自慢」の石川酒造、八王子市にある「月丸」の西岡酒造を訪ねました。

■味の決め手は雑菌にあり!

一行は、まず、福生の石川酒造に向かいました。まずは、酒蔵前の井戸水を一杯、「酒作りには、くせのない水がいい」との説明を受けながら、仕込みに使う井戸水を賞味しました。井戸水なので、ほのかなぬくもりがあります。そして、約120年前に建てられた「多満自慢」のひんやりした醸造蔵に入り、酒のできるまでの説明を聞きました。今は酒作りの工程のほとんどが機械化されているとのことですが、一部の吟醸酒等は手作りで作っています。案内役の説明によれば、酒の味を決め手は、建物の中に生息する雑菌だそうです。蔵毎に雑菌が違い独特の味ができるそうです。そのため、新しい酒蔵を作っても、雑菌が棲みつくまでは、独特の味にならないので、酒蔵は古いほど良いとのことでした。酒には辛口、甘口がありますが、早く発酵させるほど辛口になるそうです。通常より2〜3日早く発酵をとめるとできる辛口の酒は、酒の精分が薄いのでスッキリした味になるとのこと、甘口はブドウ糖を添加することが多いとのことです。本当に美味しいのは十分に発酵させ酒の精分たっぷりの、「辛口でも甘口でもない、旨口です」との説明に一堂納得。

〜中略〜

 電車で八王子に移動し、次なる見学地「西岡酒造」に向かいました。
「西岡酒造」は「石川酒造」よりこじんまりした酒蔵ですが、最近評判の上がっている酒造です。ここでは、見学者は白衣に着替え、手を消毒しての見学となりました。酒作りの工程には、2軒とも大きな違いはなく、同じような設備になっていました。しかし、「西岡酒造」では、雑菌の酒の味への貢献といった話は出ず、むしろ雑菌が入らないよう注力しているようです。

■こだわりのラベルデザインと酒蔵コンサート

西岡酒造さんでも、見学後、利き酒タイムを楽しみました。ここでは、女性向けのアルコール度の低いワインタイプのお酒など新しい商品開発にも取り組んでいます。しかし、当日参加した酒好きの女性達には、女性向けの軽いお酒は不評でした。女性といってもターゲットが違うのでしょう。主力ブランドの月丸は、洒落たデザインのラベルで統一されています。ラベルはは著名なグラフィックデザイナーの佐藤晃一氏によるもので、西岡酒造さんのこだわりが感じられます。酒の中身だけでなく、デザインにまで洗練されたイメージを大切にしていることがわかります。大吟醸、純米吟醸、吟醸、純米、本醸造、生酒等を飲み較べ、「これがうまい」「これもうまい」と言っているうちにお開きの時間となりました。
西岡酒造さんでは、酒蔵を使って、琴、琵琶、三味線からジャズ、現代音楽までのコンサートを年4回開いています。催しに合わせて、季節に合う酒を休憩時間に出し、月丸のPRを行っています。お客は近くだけではなく、遠方からも駆けつけコンサートを楽しみにしていると聞きました。

日本酒業界は、ワイン・ビール・発泡酒などへの嗜好の変化により厳しい時代が続いています。そんな中で、商品のブランド化や新商品開発、見学やコンサートなどに積極的に取り組み、顧客を開発する努力をたゆみなく続けている酒造があることを知りました。今回の酒蔵めぐりの体験を通じて、日本酒への親しみが増したような気がします。作り手から売り手に、売り手から買い手に確かな商品情報を伝えることが新規需要の開拓に繋がるものと思われます。日本人の生活に根ざした日本酒には、まだまだ新しい需要の掘り起こしの可能性があることを実感した一日となりました。

 
 
Copyright (C) since2001  有限会社 長原マーケティング研究所 All Rights Reserved.