連載 「明日のヒット」につながる気づきノート21

○スローフード運動に学ぶ「未来の顧客」育成の発想

商業界 
2002年11月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
今、静かにスローフード運動が拡がりを見せています。スローフードを「ゆっくり食べること」「ゆっくり調理すること」だと思っている人もいますが、それはちょっと違います。

 スローフ-ド運動はローマにマクドナルドが進出したのをきっかけに、1986年にイタリアのジャーナリスト、カルロ・ペトリーニ氏を中心にはじめられました。ファーストフードによる食の均質化に対抗して地域に根ざした食の豊かさの再発見を掲げ、地域の食文化を守り未来に継承していこうとする運動です。

◆日本とイタリアの食文化を結ぶスローフード

筆者がスローフードに始めて接したのは、昨年11月に東京で行われたテーブルコーディネーター手嶋麻紀子さんの「S-モードな食卓コーディネート展」でした。S―モードのSはスローフード協会のシンボルマークにもなっているSnail(かたつむり)とSake(酒)、Sincerity(まごころ)からとったものだそうです。手嶋さんが代表をつとめる「彩食絢美」では、ブラで行われたイタリアスローフード協会主催のイタリアチーズフェスティバル2001に日本ブースを初出展して来ました。日本酒とチーズの新たな組み合わせをテーマに、仙台「一の蔵」、金沢「福光屋」の大吟醸酒・純米酒・古酒を持ち込み、大きな反響を呼びました。「S−モードな食卓コーディネート展」のセミナーではブラからの報告がスライドを使って行われました。ブラはスローフード協会本部があるイタリア、ピエモンテ州の町です。会場で行われた鏡開きや檜の香りの升酒にも人気が集まり、升だけ欲しいという人も出て、升が取り合いになるほどだったそうです。

セミナー後のカクテルパーティでは、ブラみやげのイタリアの生産者が少量作っている日本ではなかなか手に入らないチーズや日本の良い食品づくりの会からの食材を選りすぐりの日本酒とともに味わい本物のスローフードとの感激の出合いとなりました。

◆一流フレンチシェフによる「食育」への取り組み

手嶋さんのスライドの中で印象に残ったのはフェスティバルには大人だけでなく、小学生が楽しそうに参加していたことです。授業の一環として先生が子供を引き連れてフェアを体験させているとのことでした。味覚は舌の敏感な小さい頃につくられるので、子供の時から、良い食べものを教えることが大切だと考えられているとのことです。スローフードの活動方針には「子供達を含めた消費者全体に味の教育を進めていくこと」が含まれています。

 その後、今年6月に東京で行われた「スローフードな食卓展」シンポジウムにも出かけて見ました。日本におけるスローフード紹介者で、「スローフードな人生」の著者である島村菜津氏が進行役で、フレンチシェフの三国清三氏、エッセイストの壇太郎氏ほか多士済々のメンバーによるパネルディスカッションが行われました。そのなかで、三国シェフが会長を務める日本フランス料理技術組合が子供達に味の教育をしているという話を聞きました。三国シェフ自ら、時間をさいて全国の小学校を回って味覚の授業をしているのだそうです。甘い・酸っぱい・しょっぱい・苦いの4つの基本の味を、小学生の間に舌で覚えないと味のわからない大人になってしまうのだそうです。昔は子供に秋刀魚の内臓やふきのとうなどを食べさせて苦味を教えたものですが、今の親は苦いもの、かたいものを自分自身も好まないので子供達にも食べさせません。このままでは、味のわからない大人がどんどん増えてしまいます。

三国シェフは、「オテルドゥミクニ」をはじめ、「レストランミクニマルノウチ」や「東京食堂セントラルミクニズ」などを手掛ける日本を代表するフランス料理のシェフです。そんな多忙のなかで、子供達のために食育活動を続けています。また、「レストランミクニマルノウチ」では子供の日に1人千円の会費で、父母と子供が本格的なフレンチのフルコースを味わう機会も提供しています。「未来のお客さんになってもらえれば」という気持ちから取り組んでいるとのお話でした。
 二つのスローフードのイベントを通じて、未来の顧客を育てることの大切さに気づきました。将来の顧客を長い目で育てていくことまで視野に入れた活動はスローフードのシンボルであるカタツムリのように歩みはゆっくりしていても着実に目的を達することと思います。

 
 
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