連載 「明日のヒット」につながる気づきノート21

○「目標設定」と「継続」で顧客づくりを成功に導く

商業界 
2002年6月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
2月の商業界ゼミナールで「『お客の本音』をつかんで一つ一つ応え続けていたらお客がどんどんついてきた」と題するパネルディスカッションのコーディネーターを務めました。パネラーは今年1月迄で52ヶ月連続対前年売上増を続ける京急百貨店の顧客サービス部顧問加藤夕紀子さんと6期連続増収増益を続けるすまいる情報光が丘社長の武藤正子さんです。

加藤さんは顧客組織を何回か立ち上げた経験豊かなマーケティングのプロフェッショナルで、京急百貨店創業にあたり、開設準備段階から入社され、顧客組織ハートネットワークづくりに尽力された方です。武藤社長のことは、気づきノート3「儲からないことの連続から儲けが生まれる」(本誌2001年6月号)で、一度ご紹介しました。「不動産は売った後から本当の商いが始まる」という考え方から積極的なアフターサービスの徹底により好業績を誇るバイタリティあふれる女性経営者です。百貨店・不動産どちらも業界全体の景気は決してよいとはいえません。そんな中、お二人の会社が絶好調なわけはどこにあるのか、その秘密にせまろうという講座でもありました。

パネルディスカッションはまずお二人の基調報告から始まりました。加藤さんは開店前から商圏顧客3000人の生活現場に踏みこんだ情報収集と店づくりへのフィードバックをどのように行ったかについて現場からの報告をされました。武藤さんからは、売った後のサービスとはどんなものなのかについて具体的なお話をいただきました。また、「週刊すまいる情報」の発行や、すまいる倶楽部の運営を通して顧客づくりをどのようにすすめているかを話されました。
お二人の話には業界は違っても共通する点が多く、「地域密着」「お客を味方につける」「お客の現場に踏み込む」といったキーワードがどちらからも出てきたことが印象に残りました。


■ 地域密着を柱にした顧客づくり
京急百貨店は、郊外型百貨店として究極の地域密着店を目指しています。そのため顧客組織ハートネットワークのメンバーを中心に、売場についての様々な意見要望の収集やモニター会議・売場チェックなどを行っています。そして集めた顧客の声を品揃え・サービスの改善に生かしてきました。その象徴といえるのが、「上大岡のパン」だそうです。開店前に顧客の声から「菓子パンには美味しいものが沢山あるが毎日食べる食パンで本当に美味しいものがあったら嬉しい」という顧客の声をアンデルセンに伝えて作られたパンで、開店後5年たった現在も定番商品だといいます。

 最近では食品の宅配を始めるにあたって注文からお届けまでのプロセスを通してどのようなやり方が顧客にとって満足度が高いかを、顧客に実際に注文してもらってお届けし実験中とのことです。
すまいる情報も地域シェア60%という地域密着度を誇っています。地域情報の収集、顧客訪問、光が丘パークタウン分譲住宅白書の刊行、すまいる倶楽部の活動などを通じて地域の文化に貢献するなど地域に働きかけてきたことが地域シェアに繋がったと考えています。

商圏が限られていればいるほど顧客を味方につけることが成功に繋がるキーポイントになるといえます。


■ 顧客づくりと経営目標を結びつける
現在、京急百貨店では、ハートフルサービス向上委員会をつくり、月毎に「お客様との約束」を決めて実行しています。全館のお約束にもとづいて私のフロア、私のショップのお約束を決めています。自分達で決めた約束を自分達で実行する仕組みです。月毎に意識して実行していけば年に12のお約束を果たすことができます。お客様の声があっても、それを従業員の意識改革や経営目標に繋げることはなかなか難しいですが、このように社員参加型で目標・期間を決めて実行することにより、一つ一つのお客様の声を実際のアクションに結び付けているのはさすがです。
すまいる情報光が丘の武藤社長は、「サービスをするだけではダメ、「ファミリー1000計画」(一人の顧客にきちんと対応することを通じて再売買と紹介により1000万円の手数料収入を獲得するという戦略目標)に結びつけなくては意味がない」と言い切ります。

顧客づくりと戦略目標との関係が明確にされていることがポイントといえます。

開店前から顧客との共創百貨店を標榜してきた京急百貨店ですが、開店5年後もそれを継続できていることが現在の好業績に繋がっています。すまいる情報も分社後6年間継続的にアフターサービス、地域貢献を続けています。顧客の声を聞こうと何か始める店はたくさんあると思います。しかし、それを持続し、企業の目標と結びつけている2つの会社事例は顧客づくりの奥の深さに改めて気づかせてくれました。

 
 
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