○部下の育成、顧客づくりも「聴く技術」を磨く

ストアーズレポート 03年3月号
 
(有)長原マーケティング研究所 代表 長原紀子
 
「うちの上司は一方的で、部下の話を聞いてくれない」「部下は返事だけで実行してくれない」などという悩みが百貨店には多いことと思います。コミュニケーションでは、話す以上に聴くことが大切です。これからは、相手を説得するのではなく、相手に気づかせて行動させるための方法が注目されています。

■相手に気づかせて行動させる

数年前からコーチングという言葉をよく耳にします。コーチングとは専門の訓練を受けたコーチがクライアント(相手)に、さまざまな質問やシンプルなアドバイスをすることにより、クライアントが目標を達成したり、ビジョンを実現したりすることをサポートする方法です。スポーツ選手とコーチの関係だけでなく、社長とコンサルタント、上司と部下などの間のコミュニケーションにも応用できます。コンサルタント業にもコーチング技術の習得が役立つのではと思い、私も入門編の研修を受けたことがあります。そこでは、座学の後、実際にコーチとクライアントに別れて、ロールプレイングを行いました。これが、やって見ると、なかなか思うようにいきません。「コーチング」しているつもりが、日頃慣れ親しんだ「リサーチング」「ティーチング」に無意識に移行してしまうのです。コーチはクライアントの上でも下でもなく、横に立ち、常にクライアントの側でサポートする立場でなければなりません。質問を投げかけながら、クライアントの持っている目標を明確にさせ、その達成に向かってクライアント自らが行動を起こすように仕向けるのです。クライアントに様々なことを気づかせ、行動を促すことがポイントです。

■売るためには聴く

営業の「聴く技術」SPIN(ケンブリッジリサーチ研究所 ダイヤモンド社刊)という本も、聴くことの大切さを教えてくれます。この本のエッセンスは、売るためには「しゃべるな、(顧客に)しゃべらせろ」という点にあります。行動心理学に基づく調査・実証分析・評価を行う英国のハスウエイト社の研究成果をベースにしています。この研究は実際の営業に調査スタッフが同行し、6000人の営業マンの発言、クライアントの発言を記録し、営業の成功不成功との関連を実証したものです。

その結果によると、

「面談時、顧客のほうが売り手より多く発言している」

「売り手はよく質問する」

「売り手は、商談の後半になってはじめて商品説明をしている」

という3つを実践している営業マンが最も商談に成功する確率が高いことがわかったそうです。SPINとは、顧客の潜在ニーズを顕在化させるための4つの質問(状況質問-Situation、問題質問-Problem、示唆質問-Implication、解決質問-Need-payoff)の頭文字をとったものです。SPINでは実証的な研究の結果から、顧客の潜在ニーズを十分に理解し、顧客自身に直面している問題に気づかせ、そのために何が必要かを顧客自身に語らせるアプローチが有効なことを示唆しています。人は他人の言葉から説得されるより、自分自身の言葉に説得されやすいのです。また、SPINでは、古いタイプのセールスは「セールスポイント」で顧客を説得しようとしますが、顧客が購入を決定するためには「バイングポイント」を顧客に気づかせることが重要だといいます。

いろいろな商品のカタログやチラシを見ているとわかりますが、その大多数はセールスポイントの羅列にすぎません。例えば「さらにバージョンアップして**機能がつきました」「**よりお安いです」といわれても、顧客は潜在ニーズに気づきません。「すでに購入されたお客様には、**が解決できたと好評です」など、購入後の具体的な成果を呈示することが、顧客の購買決定につながるのです。

「コーチング」と「SPIN」とでは目的は違いますが、共通しているのは相手に気づかせ行動を起こさせるための「聴く技術」の活用です。今までの発想を変えて、部下の育成にも顧客づくりにも「聴く技術」を活用して見てはいかがでしょうか。

 
 
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